16 異世界タクシー

「くそっ、落石が上のほうまで続いてるぞ! この調子じゃ、着く頃にはみんなゾンビになっちまわぁ!」


 俺はミッドナイトを停車させ、ダッシュボードのレベルインジケーターに問う。


「なあキッズ、ミッドナイトならこの程度の岩なら登れるよな? なんとかみんなを乗せる方法はないかな?」


「『トレーラーハウス』のスキルを覚醒させれば、いま外にいる冒険者を全員搭乗させることができるでしょう」


「なに、トレーラーハウスがあるのか!? それなら一発解決じゃねぇか!」


「はい。ですがそのために、わたしからひとつ条件があります。同時に『タクシーメーター』のスキルも覚醒させてください」


「『タクシーメーター』……? まさか、乗せたヤツらから金を取れってのかよ!?」


「ミッドナイトの『タクシーメーター』は財物以外も対象にできます。乗客の意思にかかわらず、魔力を少しずつ吸収することも可能です。少量にとどめておけば、乗客も気づきません」


「なんかそれってダニみたいだな……。同じギルドの仲間なんだぞ?」


「マスター、思いだしてください。そもそも冒険者ギルドは当初、マスターを拒絶しようとしていたのですよ? それは仲間といえるのでしょうか?」


 俺以外にやたらと厳しいキッズの性分が顔を出す。

 なんとかして説得しようとしたのだが、この件に関してはキッズはガンコだった。


 けっきょく、俺は『トレーラーハウス』と『タクシーメーター』の同時覚醒を余儀なくされる。


 ミッドナイトの後ろに、四輪のトレーラーハウスが出現。

 それはけっこうコンパクトだったので、全員乗れるか不安になる。

 運転席から降りてトレーラーハウスのドアを開けてみたら、室内は広々としていて、100人は余裕で乗れそうだった。


『ミッドナイトの「トレーラーハウス」は魔装置マギアです。魔法により、中が拡張されています』


 土木作業中の仲間たちに声を掛けると、なぜか渋い顔をされた。


「ソイツは自動車ってヤツだろ? せっかくだが、俺たちは乗れねぇんだよ。なんでかわかんねぇけど、俺たちが乗るとどれも動かなくなっちまうんだよ」


 なるほど、だから冒険者たちは馬車で移動していたのか。

 それは意外な事実だったが、手首からすかさずフォローが入る。


『その点については心配いりません。ミッドナイトは異世界でも活動できるように設計されています。異世界人が登場してもエンストしません』


 冒険者たちは顔を見合わせていた。


「……俺たちでも乗れる自動車なんてあんのか?」


「そういえば、あの黒い自動車には妖精が乗ってるわね……」


「すげぇ! 俺、いちど自動車ってのに乗ってみたかったんだ!」


 みんな大喜びで荷物を抱えてトレーラーハウスに乗り込もうとする。

 しかし俺は別のことが気になっていた。

 黙って魔力を頂くのはためらわれたので、乗せる前にみなに説明する。


「待ってくれ! このトレーラーハウスは乗っている間、魔力? みたいなのが吸い取られちまうらしいんだ!」


 すると、意外な答えが帰ってくる。

 今回の緊急クエストのリーダーだという、まるで三つ子みたいにソックリなドワーフの戦士3人組が息ピッタリに教えてくれた。


「ああ、そりゃそうだろ! コイツは魔装置マギアだろ!?」


魔装置マギアに乗るときは魔力を取られるのは常識だろ! だって、魔力が無きゃ動かねぇんだからな!」


「金は払えねぇけど、それ以外のもんだったらいくらでも持ってけよ!」


 どうやら、同乗するときに代金がわりに魔力を払うのが異世界流らしい。

 なんにしても、これで心おきなく乗せられるってもんだ。


 ミッドナイトはオフロード仕様なので険しい山でもへっちゃらだ。

 しかし、トレーラーハウスに加えて大勢の人間を乗せての山登りは初めて。


 相当な苦戦を予想していたのだが、意外にもミッドナイト単体のときよりも登坂能力は上がっていた。

 べた踏みでもキツそうな勾配でも、まるで背中を押されるようにぐんぐん登っていく。

 不思議に思っていると、キッズが教えてくれた。


『「トレーラーハウス」は独自のエンジンを備えており、ミッドナイトと連動して駆動します』


「なるほど! ってことは、いまは八輪駆動ってわけか!」


 アダルトは窓から顔を出しておおはしゃぎ。


「はやいはやーいっ! やっほーっ!」


「おいアダルト、あんま乗り出すと危ないぞ!」


「へーきへーき! うわっぷ!?」


 のけぞりながら振り返ったアダルトは、血まみれになっていた。


「お、おい、大丈夫か!?」


「だ……だいじょうぶ……でっかいトマトみたいなのに突っ込んだだけだし……」


 なんてトラブルはあったが、馬車で1日かかるという道程をミッドナイトはわずか3時間ほどで走破する。

 最後に登った山の頂上からは、夕闇迫りつつある豊洲が見渡せた。

 『るるぽーと』はきらびやかな電飾でライトアップされており、中にゾンビがいるとは思えないほどに美しかった。

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