15 はじめてのクエスト

 『るるぽーと』は、ここから南東の豊洲にあるショッピングモールだ。

 歩いて15分くらいの近場だが、異世界が来たいまだと……。


「るるぽーとだと!? あのあたりは険しい山に囲まれてるから、馬車だと休まずに行っても1日はかかるぞ!」


「それに3日が過ぎてるだと!? ったく、警察どもはなにやってんだ! いつも手に負えなくなってから俺たちに振ってきやがって!」


「ニホンジンのグズっぷりはいまに始まったことじゃねぇだろ、さっさと行くぞ!」


 冒険者たちはまるで冬山登山にでも行くような荷物を担ぎ、さんざんぼやきながらギルドを出ていく。

 アダルトが「ナイトさん、あたしらも行こうよ!」と俺の腕を引っ張ってきた。


「あ、待ってください! そちらの方はまだギルド登録が終わっていません! すぐに終わらせますから、こちらへ!」


 復活した受付嬢に呼び戻され、俺はカウンターで手続きを再開する。

 古めかしいタイプライターが打鍵されるたびに、水晶球に俺の名前が一文字ずつ浮かび上がっていく。


「お名前はナイト・ミトさん。いまは時間がありませんので、ステータスオープンは省略します。職業はとりあえず戦士にしておきますね。クエストの成果を見たうえでどの職業がふさわしいか、あらためて推薦させていただきます」


「ああ、それでいい」


「通常はギルドカードを発行するのですが、ナイトさんはギルドバンドを持っておりますので、そちらに情報を登録します。こちらの魔装置マギアの上にギルドバンドをかざしてください」


 受付嬢が出してきたのは、魔法陣が描かれた真鍮のパネル。

 その上に手首を置くと、彫り込まれた魔法陣に青い光が走った。

 同時に、腕輪から声がする。


『冒険者ギルドに登録したことにより、レベルアップしました』


 その声を聞いても、もう受付嬢は驚かなかった。


「これでナイトさんは冒険者ギルドの一員となりました。わたしたち冒険者ギルドは世界における統一組織ですので、地球上にあるどの冒険者ギルドも利用可能です。クエストの受諾や報告も、どのギルドでしていただいても構いません」


 異世界というと、俺は文明が遅れた世界のようなイメージを抱いていた。

 しかし腕輪ひとつで世界中の施設を利用できるなんて、かなり合理的で先進的じゃないか。

 さきほど冒険者たちは日本人の対応の遅さを批判していたが、その気持ちが少しだけわかったような気がした。


「よし、それじゃ行くとするか! 少しでも日本人のイメージを良くするために、がんばらなくちゃな!」


「でも気をつけてくださいね。ナイトさんは冒険者としては駆け出しのFランクですから、最初のうちは他の先輩冒険者の指示に従い、援護にまわるようにしてください」


「わかった!」


 俺はさっそうとギルドを飛び出し、すぐ目の前の歩道に止まっていたミッドナイトに乗り込む。

 しかし、アダルトはついてきていなかった。


 なにやってんだと思ったら、彼女は大きな麻袋を抱えてえっちらおっちらとギルドから出てくる。

 だいぶ遅れて助手席に乗り込んだ彼女は、麻袋の中身を取りだして俺に渡す。

 それは、ちょっとくたびれた感じの剣と盾だった。


「ナイトさんってば武器持ってないっしょ? ギルドの備品を借りてきてあげたし」


 剣と盾。これほどまでに現代社会にそぐわず、異世界感のあるアイテムもない。

 異世界人であるアダルトにとっては珍しくないものみたいだが、俺にとっては拳銃を渡されたような気分になった。


「すげぇ……! ホンモノの剣と盾だ……!」


 剣をさっそく抜いてみようかと思ったが、車内は狭いのでやめておく。

 それよりも早く、るるぽーとに行かないと。


 剣の柄よりもまずはステアリングを握る。

 なんだか、現実と空想を行ったり来たりしているような、不思議な気分だった。


 ミッドナイトを豊洲に向かって走らせていると、事前情報のとおり春海橋を渡った先は高い山々がそびえていた。

 山の麓に近づいてみると、俺たちより先に出発した馬車が立ち往生しているのが目に入る。


 落石で、山道が塞がれていた。

 徒歩なら通れなくもないが、馬車で乗り越えるのは無理だろう。

 冒険者たちは馬車を降り、岩の撤去作業をしていた。

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