14 登録試験の記録更新

『わたしはキッズと申します。以後お見知りおきを。ミッドナイトの走行中、「コレクトバキューム」で使えそうな草花を採取しておりました。ナイーブハーブもたくさんあります』


 「そうなんだ……」と俺。


『マスター、さきほどオトモ妖精を得たことによりレベルアップしています。ギルドバンドの拡張スキル、「アイテムボックス」を覚醒させてもよろしいですか? これにより、ミッドナイトに収納されているアイテムをギルドバンド経由で取り出せるようになります』


 キッズの用意周到さに、俺はあらためて舌を巻いていた。


「あ……ああ、頼む」


『「アイテムボックス」が覚醒しました。ミッドナイトに収納されているアイテムを意識することにより、そちらに転送されるようになります』


 それって、まるで魔法みたいじゃないか。

 キッズはあっさり言ってのけていたが、俺はにわかには信じられなかった。

 しかしものは試しと、目を閉じて念じてみる。


「……出ろ、ナイーブハーブ10本……!」


 そして目を開けると、俺の手のひらの上には向こうが透けて見えるほどに細くて薄い花が束になって置かれていた。

 これが、ナイーブハーブ……?


 俺はキツネにつままれたような気持ちで、現われた花束をカウンターに置く。

 受付嬢も、タヌキに化かされている最中みたいな表情で受け取っていた。


「そ、そうですか……。すでに採取したものでも大丈夫ですけど、え……えっと……しょ、少々、お待ちください……。念のため鑑定機にかけて、店で買われたものでないか、あとは品質レベルなどをチェックさせていただきますので……」


 受付嬢はナイーブハーブを、カウンターの横にあった古めかしい秤の上に置く。

 秤の土台には水晶球があって、そこにはなにやら文字が表示されている。


「たしかに……採取されたもののようですね……」


 水晶球の文字を追っていた彼女の目が、これでもかと剥かれた。


「れっ、レベル52……!? こっ、こんなナイーブハーブ、初めて見ました……! 品質も鮮度も最高クラスだなんて……!? ナイーブハーブはとっても繊細で、人の手で摘んだら必ずどこかキズが付くのに……!? それに、摘んだばかりじゃないとこの鮮度にはならないはずなのに……!?」


 その大声に、サロンにいた冒険者たちが「なんだなんだ」と集まってくる。

 受付嬢は我に返ってコホンと咳払いした。


「こ……これで、採取試験は終了です。次は戦闘試験となります。ゴブリンのキバを10本獲ってきて……」


 俺は、この不思議な力にすでに慣れつつあった。

 受付嬢の説明が終わるより早く、秤の上にゴブリンのキバを置く。


「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 水晶球に浮かんだ文字を目にした途端、とうとう彼女はひっくり返ってしまった。


「れ……れれれ、レベル58……!? 登録試験の品質レベルは、ふたつのクエストを合わせても31が世界記録なのに……!? 単体で塗り替えちゃうなんて……!?」


 カウンターの向こうで腰を抜かしたまま、ワナワナ震える受付嬢。


『登録試験の世界記録を塗り替えたことにより、レベルアップしました』


「オトモ妖精だけでなく、しゃべるギルドバンドに世界記録……!? あっ……あああ、あなたはいったい、何者なんですかーーーーっ!?」


 絶叫と、けたたましい警報がギルド内に鳴り響く。

 俺はもしかしたらとんでもないことをしでかしちまったのかと思ったが、


「大変です! 警察より、緊急クエストの依頼がありました!」


 事務所っぽい扉から、ギルドスタッフらしき男が飛び出してきた。


「『るるぽーと』に大量のゾンビが出現! 発見よりすでに3日が経過しているそうですので、かなりの増殖が予想されます! 冒険者のみなさんは至急現場に向かい、ゾンビを殲滅! それが無理なようでしたら、生存者の救出をお願いします!」

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