13 はじめての冒険者ギルド
建物の中はサロンのようになっていて、木の丸テーブルと椅子がいくつも置かれていた。
おそらくギルドの冒険者なのだろう、『月島もんじゃストリート』で見かけたような鎧やローブの面々がくつろいでいる。
奥にあるカウンターから、朗らかな声がした。
「いらっしゃいませ! 御用でしたら、こちらで承ります!」
カウンターにはメイド服姿の若い女性がいて、俺を手招きしている。
俺はすぐに理解した。あれが『ギルドの受付嬢』だと。
招かれるままに行ってみると、カウンター上には羊皮紙の書類と羽根ペンが用意されていた。
「ご依頼の前に、まずはこちらに必要事項をお書きください。ご依頼の内容につきましてはそのあとで……」
「いや、俺は依頼じゃなくて冒険者になりに来たんだ」
すると、受付嬢の顔がにわかに曇る。
「冒険者、ですか……。すみません、異世界人の方の冒険者登録は以前はやっていたのですが、いろいろと問題がありまして、現在は依頼者としての登録のみとさせていただいております」
『異世界人』、その言葉に俺は違和感を覚える。
彼女から見ればたしかに俺は異世界人かもしれないけど、浸食してきたのはそっちのほうだから……。
いや、俺たちからすれば地球に異世界が入り込んできたように見えるけど、彼女たちからすれば地球のほうが入り込んできたように見えてるのかもしれないな。
なんかややこしいけど、いずれにしても俺はお払い箱らしい。
頼みこんでも無理そうだったので大人しく引き下がろうとしたのだが、
「ねぇねぇ頼むし! ここにいるナイトさんってばすごいんだし! なんじゃもんじゃとか超うまく作れるし、あたしにコレくれたんだよ! へへっ、いっしょー!」
アダルトはカウンターに身を乗り出し、ビー玉を取りだして見せびらかしている。
わんぱく小僧のようなアダルトに受付嬢は引いていたが、背中の羽根に気づくと表情が一変した。
「あなたは、妖精族……? もしかして、こちらの方のオトモ妖精だったり……?」
「そーだよ! あたし、ナイトさんのオトモだし!」
俺が尋ねるより早く、アダルトは『おともだち』みたいなアクセントで名乗りをあげる。
受付嬢は「少々お待ちください」とだけ言い残し、奥の事務所へと引っ込んでいった。
「『オトモ妖精』ってなんだよ?」
その答えは手首からした。
「人間に協力する妖精のことです。異世界の人間は妖精のエネルギーを好んで利用するのですが、妖精が人間に心を開かないため、その大半が強制です。しかし、なかには人間に心を許す風変わりな妖精もいます。懐く子豚みたいなものですね」
「ぶひーっ!? あたしは子豚じゃないんですけどぉーーーっ!?」
ミニコントをやっている間に、受付嬢が戻ってくる。
「お待たせいたしました。ギルド長に確認したところ、例外的に冒険者登録を受け付けさせていただくことになりました。オトモ妖精を連れているのは、私たちの世界でも滅多におりません。その才覚を見込んでのことだと思います」
アダルトはいかにもギャルっぽいピースサインで喜んでいた。
「ナイトさん、やーりぃ!」と祝福してくれたが、どちらかというと彼女のおかげだ。
「しかし冒険者になるためには、登録試験を受けていただかなくてはいけません。まずは採取の能力を確かめさせていただきます。ナイーブハーブを10本採ってきてください」
試験を受けるのは俺なのに、アダルトは「えーっ!」と面倒くさそうにしている。
彼女はほんとうに表情豊かで、他人のことでも一喜一憂するタイプのようだ。
「納品物は品質と鮮度に応じてレベル付けがされるのですが、この試験では最低でもレベル5以上のものでないと認められませんのでご注意ください」
すごくゲームとかでよくありそうな試験内容に、俺はちょっとテンションがあがる。
しかし、つとめて冷静な声が手首からした。
『ナイーブハーブならすでに採取済みです』
「えっ」となる受付嬢。
「ぎ……ギルドバンドがしゃべった……?」
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