08 暴走族との戦い
だいぶ時間がかかってしまったが、俺たちは勝どき駅から離れ、清澄通りをまっすぐ北東へとひた走る。
ダッシュボードの液晶パネルには、最新のニュース映像が流れていた。
新たに『ブロードキャスト』というスキルを覚醒させたためだ。
『ブロードキャスト』は、放送波や通信波を傍受できるというもので、スマホを捨てた俺にはもってこいのスキルだった。
ニュースによると、いまの日本人の生活様式は大きく5つに分かれているらしい。
いままでと変わらない生活を送ろうとする者、避難所生活を送る者、犯罪や略奪に走る者、異世界人のコミュニティに加わろうとする者。
そして、異世界を手にしようとする者。
『次のニュースです。大日本重工が新製品の自動車の発表会を行ないました。これは現在起こっている異変、俗に言う「異世界化」に対応した自動車とのことです』
『大日本重工』は日本最大にして、世界有数の自動車メーカーだ。
そして、俺のことをダミー人形としてさんざん弄んだ親玉の会社でもある。
『専門家によりますと、このまま異世界化が進むと従来のガソリンや電気などのエネルギーが利用できなくなるという見通しがあり、この新世代の自動車が実現した場合、大日本重工は異世界を含めた世界一の自動車メーカーとして……』
俺は、黙ってニュースに耳を傾けていた。
しかし腹の中では、いっとき忘れていた、ふつふつとした思いが蘇ってくるのを感じていた。
異世界でトップを取る、か……。
まあ、好きにするがいいさ……。
だがその前に、俺のツケだけは何としても払ってもらうぜ……。
俺を娯楽がわりに轢きやがった、会長や社長……! そして、政治家や官僚どもに……!
ふとキッズの声がして、思考が現実に戻る。
「マスター、2台の車両が高速で接近中です。バックモニターに表示します」
ニュース映像が切り替わり、ミッドナイトの後方視点となった。
卍マークの入った黒い旗をはためかせ、砂塵をあげながら迫り来るオープンカーが映し出される。
そこには見覚えのある特攻服や作業服の男たちが箱乗りしていて、こちらを指さし喚いていた。
普段なら聴こえない距離だが、キッズが気を利かせて『サウンドセンサー』のスキルで声を拾ってくれた。
『いたぞ、あの車だ!』
『アレか、俺たちダークエンペラーにチョッカイ掛けてきやがったのはよぉ!』
『もう逃がさねぇぞぉ! たっぷり思い知らせてやろうぜぇ!』
さらにスピードを上げ、猛追してくる改造車たち。
ちょうど走っていた森の道が途切れ、ミッドナイトはひとあし早くアスファルトに飛び出す。
森のすぐ外は月島橋で、橋のアップダウンに車体が宙を舞った。
後続の改造車たちも『ひゃっはー!』と大ジャンプ。
俺たちは団子状になって、ストレートの車線になだれ込んだ。
目の前には、地下鉄大江戸線の『月島駅』の街並みが広がっている。
俺はフロントガラス越しに地平を見渡し、車道に他の車や人の姿が無いことを確認してからギアを低速に切り替えた。
それだけで、キッズは察する。
「振り切るのではなく、迎え撃つのですね」
「ああ、ちょっとひと暴れしたい気分なんだ。ミッドナイトの対車両戦闘能力を確かめるのにもちょうどいいしな」
そう言っている間にも、オープンカーがミッドナイトの両脇に付けてくる。
チンピラたちはミッドナイトの屋根をバットやチェーンでガンガン叩き、火炎瓶を投げつけてきた。
火炎瓶はバックドアに着弾、ガラスが割れるような音とともに燃え広がる。
リアガラスが炎に包まれ、強烈なオレンジ色の光が背後から抉りこんでくる。
後部座席で着替えていたアダルトは、尻に火が付いたウサギみたいな悲鳴をあげていた。
「ぎゃーっ!? ナイトさん、燃えてるんですけどぉーーーっ!?」
「落ち着け、アダルト! ミッドナイトは世界最強の装甲車よりも頑丈だ! モロトフカクテルくらいじゃ、カイロにもならねぇよ!」
「そ……そういえば……。あんなに燃えてるのに、ぜんぜん熱くないし……?」
キッズが「消化します」とバックドアのワイパーをキュッキュッとやるだけで、火は消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます