04 はじめての戦闘
俺は縁を切り捨てるようにハンドルを切り、晴海通りへと出る。
いまの気分は最高。澄み切った空の下、初めての航海に出る船長のように高揚していた。
とりあえずここから道なりに北東に進んで、地下鉄の『勝どき駅』まで行ってみることにしよう。
「チーフがここまで来られたってことは、異世界が来ても地下鉄は動いてる可能性がある。駅が機能してるなら、駅前に行けば世界の状況がもっとよくわかるかもしれん」
俺の家から『勝どき駅』までは、徒歩で15分といったところ。
だが異世界が来たいまとなっては、草原や森が途中にあり、悪路だらけでまっすぐに進むだけでも大変だった。
行き交うトラックも、みんなオフロード仕様。
風景はアフリカのサバンナ風だったりジャングル風だったりして、先進国を侵食するように途上国が入り込んでいるような印象。
時折まざる勝どきの街並みは見慣れたままだったが、商業施設はほとんどが廃墟のようになっていた。
ふと、キッズが反応する。
「慣らし運転が終了したことにより、ミッドナイトがレベルアップしました。新しいスキルを覚醒できますが、どうしますか?」
「もう慣らしが終わったのか? まだ30キロくらいしか走ってないぞ。……まあ、細かいことはいいか。新しいスキルって、どんなのがあるんだ?」
「いろいろありますが、現時点でのオススメは『マイレージ』です。これは、走行距離に応じて経験値が得られます」
「走ってるだけでレベルアップできるのか? そいつはいいな、それにしてくれ」
「承知しました、『マイレージ』を獲得します。これからは、走行距離1メートルにつき1の経験値が取得できます」
「よーし、この調子でガンガンいくぜ!」
そのときはちょうど森の中にある土の道を走っていたのだが、森が途切れて草原に出た瞬間、
「ギャーッ!」
とダミ声の絶叫とともに、顔はオッサンなのに身体は子供みたいな、へんな生き物が車に体当たりしてきた。
「うおっ!? なっ……なんだいまの!? 肌が緑色だったぞ!?」
キッズが打てば響くように教えてくれる。
「それはおそらくゴブリンですね。ゴブリンはああやって馬車などに体当たりし、停車したところを集団で襲うのです」
俺はブレーキに足を掛けていたが、その説明を受けてよりアクセルを踏み込んだ。
するとキッズの言うとおり、草原では大勢のゴブリンが待ち構えていた。
「モンスターってやつか! でも、なんでこんな所にいんだよ!?」
「悪路により、本来のルートを外れてしまったようです。ここはおそらく、南東にある豊海運動公園だと思います」
豊海運動公園は、うちから歩いて5分のところにある公園だ。
「って、まだそんな所なのかよ!? それに道を外れりゃ、モンスターだらけって……まさに異世界だな!」
目の前に広がる草原には、名残のようにレンガ道や公園遊具が散在しており、ゴブリンたちが楽しそうに遊んでいた。
ミッドナイトが入ってきたとわかるや、獲物が網にかかったとばかりに、手に手に竹槍を持って加勢にくる。
俺はハンドルを切り、草を散らす勢いでミッドナイトを反転させる。
元きた道を戻ろうとしたが、森の入口にはゴブリンたちのお手製であろう、マキビシのようなものが撒かれていた。
「あれは……スパイクストリップ!? やべぇ、閉じ込められた!? どうしよう!?」
「マスター、落ち着いてください。ミッドナイトの頑丈さは、マスターがいちばんよくご存じでしょう。ゴブリンの攻撃ではカスリ傷ひとつ付きません。それにミッドナイトはコンバットタイヤですから、警察用のスパイクストリップでもパンクしません」
「あ、そっか、そうだったな! だったら……こっちが狩ってやるとするか!」
いきなり襲われたせいでテンパっちまったが、よく考えたらミッドナイトの性能を試すまたとないチャンスじゃねぇか。
ゴブリンたちは竹槍を構え、隊列を組んで押し寄せてきていた。
1匹だけなら小柄なモンスターに過ぎないが、数が多いせいでなかなか迫力がある。
「あんなのを見せられちゃ、トラックの運ちゃんとかだったらさっさと車を捨てて逃げてるよなぁ……! だが俺を罠に掛けたのが運の尽きだっ! ……どーんっ!!」
フルアクセルで槍ぶすまに突っ込むと、竹槍は裂けるチーズのように弾けてバラバラになる。
ゴブリンたちは腐った花びらのように散り散りに吹っ飛んでいた。
「ゴブリンを倒したことにより、レベルアップしました」
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