05 はじめての戦利品
「モンスターを倒してレベルアップなんて、まさしくRPGみたいだな」
俺は本当に異世界に来たのだと、改めて実感。
俺たちを襲ったゴブリンは、ひと轢きでほとんど全滅。
わずかな残党たちも、こけつまろびつしながら逃げ惑っている。
追い回して殲滅しても良かったのだが、ゴブリンは逃げ足が素早くて面倒くさそうだったので見逃した。
「それよりもキッズ、次のスキルはなにがオススメだ?」
「モンスターを倒したあとは、ルーティングするといいですよ」
「ルーティング? なんだそりゃ?」
「死体を漁って所持品を奪ったり、素材を剥ぎ取る行為のことです」
「たしかにRPGじゃ定番だけど、ここでミッドナイトを降りたら危ないんじゃ……?」
「そんなときのためのスキルがありますが、いかがしますか?」
「オススメなら、それにしてくれ」
「承知しました。『コレクトバキューム』を覚醒させます」
キッズの説明によると、『コレクトバキューム』のスキルがあると、ミッドナイトの車体の底面に吸引用のホールが出現するらしい。
「死体の上を通過すれば、自動的に吸引されます」
言われたとおりにミッドナイトでゴブリンの死体の上をまたぎ通ってみると、運転席の下から吸引音と、エンジンの振動とはまた違うわずかな揺れがおこる。
通り過ぎたあとは、血の跡すらも見当たらないほどにきれいになっていた。
ダッシュボードにある液晶パネルに、吸引したものがアイテム名となって次々と表示されていく。
「まるでロボット掃除機だな」
「不要なものは排出できますので、掃除にも使えますね。あとは、植物の採取などにも使えますよ。……アイテムを回収したことにより、レベルアップしました」
「レベルアップ早いな」
「初めての行為には多くの経験値がもらえるのです。次のスキルのオススメは、『ビジョンセンサー』ですね」
「なんだそれ」
「わたしに目を与えるスキルです。わたしが車内と車外をある程度見渡せるようになります」
「なんだ、いままで見えてなかったのか」
「はい、いままではマスターの反応やミッドナイトの車体の向きや振動の度合などで状況判断をしていました」
「そりゃ不便だったろ。よし、そのスキルにしてくれ」
キッズの「承知しました」という声を聞きながら、俺はミッドナイトを森へと走らせる。
ゴブリンたちが仕掛けたマキビシを踏み越えてもタイヤはパンクせず、むしろへし折って通過できた。
「初めて罠を突破したことにより、レベルアップしました。次のスキルのオススメは、『サウンドセンサー』です。これはわたしに耳と、外部に対しての口を与えるスキルです」
「それでいいよ。運転中だから、判断はお前に任せる」
「承知しました」
来た道を戻ってふたたび晴海通りへと戻り、ひたすら走った。
異国に迷いこんだような山道の合間に、ここが日本であることを思いださせてくれるようなアスファルトがたまに現われる。
そうやって2時間ほど走ってようやく、地下鉄大江戸線の勝どき駅に到着。
そこは異世界というよりも、もはや世紀末だった。
店や建物はどこもシャッターが降り、落書きの跡だらけ。
人通りはまばらで、みな人目を避けるようにして歩いている。
それもそのはず、作業服や特攻服に身を包んだ男たちが、火の焚かれたドラム缶の前にたむろして、ガラの悪い視線を振り撒いていたからだ。
駅前にあるタワーマンションの前にはバリケードが張られていた。
ドーベルマンを連れ、アサルトライフルで武装した警備員たちがあたりを威圧するように立っている。
その光景に、俺は異世界到来以上の衝撃を受けていた。
「すげぇな……! たった半年で、ここまで荒廃するなんて……! 大地震の時でも、ここまでじゃなかったのに……!?」
「日本人は災害時でも礼節を守る国民性ですが、異世界に影響されているのでしょう。モンスターを作り出す瘴気によって、一部の人間が凶暴になりつつあるのだと思います」
キッズは駅前の様子を冷静に分析していた。
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