6ページ オムライス

 突然の指打ち。

 悠人は、先程の催眠術の再現だと理解し、かかったフリをした。

 未歩は悠人の前に手をかざして、本当にかかったのか確かめていた。反応が無いのを確認すると、悠人が固まっている間に、未歩はケチャップを使って文字を書き始める。

 それは、ハートマークが描かれたものだった。

 "LOVE""大好き!"

 と書き示すと、悠人の前にそれを置く。

 悠人は驚きの声を上げそうなのを我慢する。

 一体どういうつもりなのか。

 未歩の方を見ると、恥ずかしそうな顔をして頬を赤らめていた。

「さ。召し上がれ」

 と促されて。

 悠人は、動揺をひた隠しにし、ロボットのように無表情でオムライスにスプーンを入れた。本当は写真に撮って永久保存したい気持ちを殺してだ。

 何口か食べていると、未歩は両顎に頬杖をつきながら悠人の顔を、表情を輝かせながら嬉しそうに見つめていた。

 その視線に気が付きつつも催眠術にかかっているフリをして黙々と食べる。

 そして半分くらい食べたところで不意に声をかけられる。

 それはとても小さな声だったがハッキリと聞き取れてしまった。

「おいしい?」

 不安げな声で尋ねられてしまい、悠人はフリを悟られないように答える。

「おいしいです」

 棒読みだけれど本音を口にした。

 未歩の喜ぶ顔が見られるならどんなことでも出来ると思った瞬間だった。

 その後で未歩もオムライスを食べ始めたのだが、終始ご機嫌で口元には笑みを浮かべていた。

 そんな妹の姿を見つつ、オムライスを食べる。

 こんなにも可愛い表情の未歩を見るのは、先程ぶりだろうか。悠人にとっては、まるで夢のような時間だ。

「お兄ちゃん。わたしの料理、もっと食べたい?」

 そんな質問をされる。

 正直なところ、満腹になってきていてこれ以上は食べられそうにないところまで来てしまっている。だけどここで断る訳にはいかないから、胃袋とは真逆のことを口にした。

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