5ページ 天使だ

 次にやったのは、腕を伸ばし動かなくなってしまうという催眠術だ。

 悠人は真っ直ぐのばした腕が動かなくなったフリをし、慌てたフリをし、未歩に助けを求めた。

 こうして兄妹の時間だけが過ぎていく中、夕食時になり、食事の用意をすることになったのだが父親も母親も仕事で帰りが遅くなるという。

 ここで、一つ問題が出てきてしまった。

 料理をしなければならないからだ。

 しかも、今夜の夕飯の献立は何が良いか未歩に訊いてみたところ、オムライスと答えたため、余計に頭を抱える結果となった。

 悠人は作り方が分からなかったのだ。

 スマホで検索を行っていると、未歩はいつもの感情を表に出さない無表情のまま口を開いた。

「わたしが作る」

 未歩は台所に向かったので、悠人もついて行った。未歩は普段から母親の手伝いをしているだけあって、手際良く調理を進めていく。

 悠人は横で見ているだけだったが、未歩の手際に圧倒されてしまっていた。

「さすが、我が家の天使だ」

 そう心の中で呟いた直後、つい本音が悠人の口から零れてしまったのだ。

 それに反応したのは妹の方だった。

 怒った様に悠人を睨みつけると、無言のままで玉ねぎと鶏肉を炒め始めた。

 食欲をそそる匂いと、香ばしい音を響かせる。

 完成間近となったところで妹は突然こう言い放った。

「食べよっか」

 素っ気なく。機嫌が悪そうに。

 そして、皿に盛られたオムライスを差し出してきた。

 付け合せにツナと玉ねぎのサラダ。

 オニオンスープを作ってしまう。

 小学生の家庭科の授業で習っていたのもあるが、未歩が普段からどれだけ家の手伝いをしているのか悠人は改めて思い知らされた。小学生とは思えないほどの腕前に驚かされてしまった。

 一通りの準備を終えた後、二人はテーブルを挟んで座った。

 二人で同時に合掌をしていただきますと言ってスプーンを手に取る。

「お兄ちゃん」

 すると、未歩は悠人の前に手を差し出す。

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