4ページ 無邪気な

 悠人は言われて素直に従う。意識を集中してと言われ、その通りにする。

「3,2、1」

 と、未歩は数え指打ちをする。

 そして悠人は意識を失ったフリをした。

「え、お兄ちゃん?」

 突然の出来事に驚く未歩だが、すぐに冷静さを取り戻す。

 それからしばらく待っても、一向に目を覚ます様子のない兄を前にして、彼女は本をパラパラと捲り一つの結論に達した。

 どうやら本当にかかってしまったらしいと。

「スッゴイ。この本、本物なんだ」

 驚きつつも、嬉しく思う妹は、更に兄に対して試したいことが出てきた。

「お兄ちゃん。ホットケーキ作って」

 未歩が言うと、悠人はロボットのように返事をしてホットケーキ作りを行い始めた。料理下手な悠人ではあったが、混ぜて焼くくらいのことはできた。もちろん悠人の演技で、催眠術にかかったフリをしていたのだが。

「うわ~。ホントにかかっているんだ」

 そのことに興奮を覚えた未歩の瞳は輝き始めた。

 やがて、テーブルで待っていた未歩の前にホットケーキが差し出される。

 光り輝く、たっぷりのメープルシロップをかける。

 すると未歩は笑顔を浮かべた。

 笑顔が花のように可愛く見惚れてしまう。いつもは冷めている表情をしていることが多いから尚更だ。

(あれ。未歩って、こんな無邪気な顔をするんだ……)

 そんな妹の姿を見たことで、悠人は改めて思い知らされる。やっぱり自分はどんなことがあろうと妹が好きなんだということに。

 それから未歩は、悠人の顔の前で手を叩く。

 悠人はビックリした顔をしながら意識を取り戻すフリをしていた。

「あれ。俺、何してたんだ」

 記憶が無いかのような発言をするが実際はハッキリ覚えていたりする。だけどそれでは意味がないと分かっているから演技を続ける。

 自分で作ったホットケーキを見て、未歩が作ったのかと訊くと彼女は首を振って、悠人が作ったと言い、悠人はビックリしてみせた。

 自分で演じながら、少し大根役者なところがあるのを自覚していたが、未歩は騙されているようだ。

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