崩壊と再生

第150話 第三王子登場

「急いでるんだ、どいて?」

 リオンが魔力を放つ。虹色の蝶が禍々しい紫色へと変色していった。


「何だこれは?!」

 刃を握るものに反応し、その蝶が群がっていく。


「こんな状況だ、加減する気はないよ」

 容赦なく帝国兵の命を奪っていく。


 帝国兵がいた後には変色した人間だったものの塊が残っていた。


 ウィグルは相変わらず人の死に慣れておらず、青褪めている。


「兄様はどこ……ではないね。これは良くない状況だ」

 リオンはバルトロスの魔法に触れる。


「今魔法を解くよ。消滅したら出血酷くなるから、サミュエル、サポートして」


「わかりました」

 リオンが魔法を解くとすぐにサミュエルは回復魔法を掛ける。


「さすがリオン様、あなたが女性だったら惚れてました! 男なんで無理ですけど!」


「うわお。なんだか告白してもないのに振られた気分だ」

 キュアの元気そうな言葉に安心はするが、なんとも複雑な気持ちになる。


「兄さん、大丈夫ですか?!」

 体中を黒い杭に刺されている二コラを見つけ、マオが駆け寄る。


「こんな事、絶対に許せない。一体誰にやられたのですか!」


「マオ、危ないから触れてはいけない。これは皇帝、バルトロスの魔法だ」


「通りで陰険で意地悪い魔力だ。全く骨が折れる」

 リオンは次々と拘束されているアドガルム兵を解放しておく。


「オスカーも大丈夫かい?」


「ありがとうございます、ってリオン様、その手は?!」

 オスカーは自分に触れるリオンの手が血で濡れているのに気づいた。


「陰険だって言っただろ。僕の魔力に反発してこうして攻撃してきてるんだよ」

 手早くしないとリオンも刺されてしまうかもしれない。

 充分に警戒をしながら解き放っていくが、針で刺されたような痛みに顔が歪む。


(恐らく魔法を解いているのにも気付いている。なのに何の対策もしないとは、どういう意図だ?)

 また罠だろうか。


 今は考えてもわからない。とにかく一刻も早く皆を解放させなければいけない。


 ようやく二コラも救出し、リオンはサミュエルに手を差し出した。


 指の感覚もわからないくらいに、痛みが広がっている。


 回復してもらっている間に、周囲に目をやると、皆が誰かを取り囲んでいるのが見えた。


 イシス、ギルナスだ。

 二人は拘束されているが、これはいったいどういう状況なのか。


「とっとと殺せ!」

 噛みつくようにいうイシスを無視し、ニコラに目を向ける。


「これはどういう事?」

 先程帝国兵たちは二コラを追い詰めていたし、皇帝もあらわれたということなら、二人が拘束されたままなのはおかしい。


「戦いに勝ったため、捕虜にし、連れて行こうと拘束してました。その後に皇帝率いる帝国兵が来たのですが、拘束されている二人を見て、負けたものは要らないと。我々ごと始末せよといっていました」


「見捨てられたんだね」

 同情するような目線にイシスは尚も叫ぶ。


「我らを殺せ、第三王子! 情けは要らない」


「兄様が捕虜にすると言ったのなら殺せない。二人を連れて行こう、道案内もしてもらいたいし」

 二コラに頼み、二人を立たせる。


「殺さないのですか?」

 マオの疑問にリオンは頷く。


「うん。エリック兄様が決めたなら何か意図があるに違いない」

 全幅の信頼を寄せていた。


「兄の言いなりか。やはり情けない男だ。ここで我々を殺さない事を後悔するがいい!」


「別に言いなりでもいいけど、家族の言うことは信じるもんでしょ?」


「ならばお前は家族に死ねと言われたら死ぬというのか?」


「内容に寄るなぁ。僕が悪い事したら仕方ないけど、そうじゃなかったら家族達が許さないよ。例え父様、国王に命令されても駄目なものは駄目だもの」

 その一言にイシスは衝撃を受ける。


「たかが子どもが、いち臣下がそのような事を言っていいはずがない」


「いいんだよ。そもそも意味なく命を簡単に奪うようなトップはいらなくない?」

 国は人から、民からなる。


 その民を守りこそすれ、虐げるのは善政ではない。


「ねぇイシス。君は皇帝のしてることはどう思っているの?」


「どうも思わない、私は命令された通りに動くだけだ」


「それは忠誠心? それとも親子の情?」

 イシスは答えられない。


「マオ。イシスの胸元見られる? 恐らく契約の魔法が掛けられている」


「?!」

 イシスは明らかに動揺を見せた。


「や、やめろ」

 身を捩ってマオの手を逃れようとするが拘束されていて動けない。

「イシス様から離れろ!」

 ギルナスもマオに食って掛かろうとするが、カミュに抑え込まれる。


「じっとしていろ」

「ぐっ!」

 地面に体を押し付けられ、呼吸もままならない。


「確かにあるです」


「陰険な魔力を感じる。恐らく皇帝自ら掛けたんだろ? 身内すら手駒にしたいんだね皇帝は」

 これでは皇帝の命令に逆らえないし、逃げ出すことも出来ない。


「その魔法があるのに帝国兵に殺せだなんて言って、苦痛を与えたい以外にあるのかな?」


「……」

 二コラのように簡単に死ねない体だ。死なずに苦痛を受け続けるなんて拷問に他ならない。


「そんな皇帝に仕える理由はないんじゃないかな。ここらで一矢報いてもいいと思うんだけど」

 その言葉にイシスはリオンを見上げた。


「一緒に行こう。君はもう皇帝から自由になるべきだ」

 リオンはそう言うとイシスの契約魔法に手を翳し、その呪縛から解き放つ。


 そして魔力切れで倒れてしまった。



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