第126話 強者と救い

 ひと際大きな影はティタンの攻撃を真っ向から受け止めても平然としていた。


「俺の攻撃を受け止めるものがいたとはな」

 刃を合わせた剣がギリギリと震える、膠着状態だ。


 ティタンの口角が上がった。


 戦ではあるが強者に会えるのは嬉しい、抑えていた戦いへの渇望が沸き立つ。


「屍人としてではなく、生きていた頃に会いたかったものだ」

 このような戦いは不本意だ、別な形であれば剣を交える事を素直に喜べたのに。


「……」

 何も言わずに大男はティタンに切りかかった。


 大きな斧を軽々と振り、ティタンを追い詰めていく。


「戦斧を持つ者と戦うのは初めてだ」

 重量を感じない素速さと躊躇いのない踏み込み、傷も痛みも恐れない体故に無謀な動きも出来るのだろう。


 防御壁と身体強化を使い分け、ティタンも攻撃をいなし追撃を行なった。


 胴体に蹴りを喰らわせ距離を取るが、相手もすぐさま態勢を整える。



「いい動きだ、ぜひ師のシグルドにも会わせたかったよ」

 ティタンなりの最大の賛辞だ。


 体と剣に魔力を流し、次の攻撃への備えを行なった。









「あまり長引くのはまずいですね……」

 この戦力で抑えられればとは思っていたが、あのような強力な手駒をまだ持っていたなんてとセシルは歯噛みする。


 アドガルムの兵も治癒師も懸命に戦っているし、今のところは良い形での拮抗状態だ。


 戦力をこちらに向けさせるための事だし、ルビアをここに足止め出来ているのは良い事だろう。


 だが、ティタンを抑えられるような敵がいると戦況がどう転ぶのか心配になる。


 それにルビアと対峙してからすぐにエリックへの連絡を行なったのだが、通信石が作動しない。


 セラフィムの時と同様に結界で遮断されているのだろう。


(時間がかかっても倒せれば……と思ったが、まだまだ余力を残してそうだな)

 余裕の表情をしているルビアを見て、セシルは考える。


 対抗する力を持つレナンがいない今、どうやってルビアを抑え込んだらいいかと。





 ルビアもまた内心で焦っていた。


(何とか誰か来てくれないかしら)

 折角ティタンの注意を惹きつけられているのだ、今のうちにミューズを何とか攫いたい。


 ギルナスでもイシスでもダミアンでもいい、見る限り今ミューズを守っているセシルは戦うのが苦手そうだ。


 あの強固な防御壁から引きずり出せれば、攫うのは容易なのに。


 我慢強いけれど、お人好しなミューズはとても隙が多い、その為彼女を揺さぶるものは準備してきた。


 それらを使えばすんなりとミューズは自分についてきてくれるはずだ。


(しばらくはあれだけで持ちそうだし)

 切り合いを続けているティタンを見て、ルビアは急ぐ。


 ルドとライカにも気づかれないように事をすすめなくては。






「あいつ、一体何なんだ?」

 敵兵を減らしつつ、ライカはルドに話しかける、所々傷つき血を流すが、剣を振る手は止まらない。


 そんなライカの視線はティタンの戦う相手だ。


「ティタン様の攻撃を受け止めるとは、シグルド様とは違う猛者だな」

 ルドも頬の血を拭いつつ、ライカに返事をする。


 さすがに疲労の色が濃い。


「楽しそうだな」


「あぁ」

 その表情はティタンにしては珍しいものであった。


 それはキールやシグルドなど、ティタンと互角あるいはそれ以上の力を持つ者と戦う時の表情である。


「あっちの決着も何時着くかわからんな。俺達で何とかしないとな」

 ライカはルビアに目を移した。


 まだまだ距離はあるが、あの女を仕留めないとこの地獄は終わらない。


 時折声が聞こえるのだ。


 この苦しみから解放して欲しい、楽にして欲しいと。


 ルドとライカの剣が炎を纏う。


「せめて迷わずにあの世へと向かってください」

 ルドの青い瞳が炎を反射し煌々と光っていた、故郷に帰ることも出来ず、主君を守る事も出来ずに散らしてしまった命だ、これ以上苦痛を長引かせるわけには行かない。


 ライカ達は生まれ育った母国シェスタに愛着はないが、もしもアドガルムがそのように攻められたのならば許せはしない。


 命を捨ててでも抗うだろう。


 だが、その思いすらこうして踏みにじるのだから帝国に慈悲の心など持ちえない。


「必ずあの女は殺す。こんな事を命じた帝国も潰してやるからな」




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