第127話 相対

 リオンの転移装置のおかげでエリック達はヴァルファルの街中にすんなりと来られた。


 思ったよりも中心地に近い。


「ティタンとリオンが頑張ってくれている間に何とかしなくてはな」


 エリック達も馬で駆け始める。


 本当はグリフォンを連れてきたかったのだが、それでは目立ち過ぎると断念した。


 折角陽動を行なってもらっているのだから、その隙に攻め入らなくてはならない。


 皆今頃頑張ってくれているだろう。


(ルビアを早く片付けねばな。あの能力は厄介だし、早めにレナンも国に返したい)


 自分と共に乗るレナンを支える手に、力を込める。


 認識阻害の魔法を掛けているため声は出さないが、レナンも胸に頬を寄せ、応えてくれる。


 静かな進軍を開始し、裏門についた。


 勿論こちらにも警備の者がいる。


 エリックが目で合図をすると二コラとオスカーが静かに動いた。


 二コラは簡単にも警備の者の首を切り落とし、オスカーも蔓を鞭の方に操り、絞首する。


 すんなりと警備の者を始末することは出来たが、あまりにも呆気なすぎた。


 このまま中に入るかどうかと警戒をしていると、エリックの背筋を悪寒が這い上がる。


 本能的なものか、先の戦では感じた事のない嫌なものだ。


(行けるか……? いや、行かねばならないな)

 ここまでお膳立てまでしてもらったのだ、退く気はない。


「レナン」

 気がかりは彼女の事だけだ、やはり戻らせるべきだと判断をする。


「何でしょう」

 笑顔で応じてくれるがその声は硬い、何を言われるのか察しているようだ。


 よく見れば顔も真っ白だ。


 そう言えば人を殺すところを配慮もせずに見せてしまったのを、今更ながら気が付く。


「アドガルムに戻っていてくれ、ここから先はもっと過酷だ。今以上に人が死ぬところを見なくてはならない」


「それは嫌です」

 血の気のない顔でレナンは首を横に振る。


「この程度の事で倒れそうになっている君を、これ以上連れ回すわけには行かない。この中に入ったらもう引き返せないだろう、さすがに守りきれる自信がないんだ」

 そっとレナンの頬に触れる、柔らかな頬は冷たくなっていた。


 それでもレナンは一人で帰る事を拒否する。


「嫌です、嫌。離れたくないのです」

 気丈に振舞うレナンだが、足はすくんでいる。


 この皇宮内が恐ろしい雰囲気に包まれているのは感じている。


 だからこそレナンはエリックから離れたくないのだ。


 万が一にでも何かあったらロキに言われていた力で、助けることが出来るかもしれないのだから。


「そうはいかない」

 エリックもここで引いてはいけないと説得をしようとするが。


「恐れながら」

 二コラが二人の間に入るようにして、会話に割り込む。


「エリック様、少しこちらへ」

 レナンに聞こえない位置にて話をする。


 エリックは表情を変えずに二コラの話を聞いて、浅くため息をつく。


「わかった、レナンも連れて行く。ただし、側を離れるなよ」

 レナンに向き直ると、エリックはキュアに護衛を任せる。


「レナン様、あたしと共に行きましょう」

 レナンの腕に腕を絡ませ、キュアは嬉しそうにくっついた。


 エリックは眉根を寄せるが文句は言わない、レナンは歩くのも覚束なかったからだ。


 だが、レナンを抱えて歩くことは出来ないので、我慢するしかない。


 キュアであれば女性だし、戦う力もある。


 安心と言えば安心なのだが……。

 

「それ以上は近づくなよ」

 一応の牽制はしておく。







「準備は整いましたか?」

 聞き覚えのある声にエリックは振り返る。


 その人物を見て、目を細め、剣を強く握った。


「警護の者の気配が途切れたので見に来ましたが、あなた方なら納得です」

 現れた人物はエリックがいても驚いた様子も見せない。


 寧ろその表情は落ち着いていた。


「リオン王子が入り込んでいるとの報告は受けていましたし、正門の方からはティタン王子が攻め入ってきています。ならばあなたも来るだろうと思って警戒をしていました。王太子ながら大人しく国に残る人ではありませんからね」

 淡々と話しつつ、中に入るように促す。


「戦うならこちらへどうぞ。広い場所がありますから」


「ギルナス、何を企んでいる」

 このようにすんなりと通そうとするとは罠であろう。


 エリックはリオンとギルナスが戦っていた様子を思い出していた。


 小柄であるとは言え、成人男性の体を片手一本で持ち上げるくらいの膂力を持つ者だ。


 先の戦いで失った指は今は手袋をしていて見えない。


 だが武器をしっかりと持つその様子から、おそらく回復しているのだろう。



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