第125話 攻防
「これは、草魔法ですか?」
セシルがこうして攻撃魔法を使用するのをミューズは初めて見た。
「普段は防御と回復に徹していますからね。でも今回はミューズ様もいらっしゃるし、温存している場合ではないでしょう」
広範囲に及ぶ攻撃はこの場合有効だ、そして草魔法は仕留めるというのもだが、動きを封じるのにも適している。
丈夫な植物の蔓や枝が動く屍人の体に絡まったり、串刺しにしたりして、進行を止めていた。
労力的にも少なく、足止めだけでいいのならばセシルも魔力を消費し過ぎずに済む。
(周囲を省みないから、お互いを助けることもしないもんな)
これが人間だったら、周囲が手を貸したり連携したりして、対策を取るだろう。
しかし、この屍人達にそのような知能はないようで、そして命令するルビアもただ侵攻せよという簡単な命令しか出していない。
動きを止められたもの達は次々と切り捨てられるし、ティタンも前線にて大剣を振るい、元人であったもの達を細切れにしている。
ただの有象無象の集団に負けるはずはないのだ。
普通であれば。
「思ったよりもしぶといわね」
言葉とは裏腹にルビアはまだケロッとしている。
「でもさすがに疲れたのではないかしら? まだまだあたしの方では使える手駒はあるけどね」
ルビアが魔石を使用して魔力を補充すると、大量の魔法陣が地面に現れる。
「これは?!」
皆がその魔法陣に触れないようにと飛び退る。
「この前の戦利品よ、さっきよりは手ごたえがあるはずだから楽しんで頂戴」
先程とは違った風貌の者達が魔法陣より現れる。
百数名はいるであろうか、武器を手にし、鎧を纏っていて、構える姿は玄人のものだ。
(気迫が違うな、素体の強さか?)
さすがのティタンも警戒を露わにする。
構えもだが、明らかに陣形を取っている。
もしや知能や知識もあるのだろうか。
「ルド、ライカ、援護を任せる」
ティタンは囲まれないように気を付け、大剣を振るった。
「俺の攻撃をいなすとは」
ティタンの攻撃を上手く受け流し、懐に入ろうとする人影がある。
「確かに強い。だが、何故だ?」
ティタンが負ける事はないのだが、このような強いもの達までもが帝国に打ち負かされたというのか。
どうにも解せない。
その表情を読み取ったのか、ルビアは愉しそうに説明をした。
「人質さえとれれば簡単よ。誰だって愛しい人の命は助けたいと思うでしょ?」
ルビアの言葉にドクンと心臓が跳ねる。
「まさかそのような卑怯な手で従わせたのか?」
「えぇ。主君を人質に取ったらすぐに武器を捨ててくれたわ。最初は契約魔法で従わせていたのだけど、思ったよりも死を選ぶものが多くてね。だからあたしの力で再利用してあげたのよ。動けなくなるまで使い切ってあげるわ」
かつてミューズを人質に取ろうとしたのは、こういう為かと歯ぎしりをした。
ルビアがくすくすと笑う。
「今欲しいのは王太子の方ね。早くあの方でいろいろ遊びたいものだわ」
想像し、うっとりとした表情を浮かべている。
「そこの王女様はダミアンに上げる約束をしてるから生かしておいてあげるわ、何をされるかは聞かないけどね」
まるで物の譲渡でもするかのように言われ、激怒する。
「俺の妻を渡すものか!」
ティタンの大剣がルビアまでの道筋を切り開くために振るわれる。
だが、一際大きな影がその一撃を受け止めた。
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