第128話 皇女と王太子

 ギルナスに案内されたのは城内の訓練場だ。


 確かに広いが、わざわざ内部に招き入れるなど怪しさしかない。


「キュア、けしてレナンから離れるな。守り抜け」


 後方に下がらせて、剣を抜く。


 訓練場の奥にはイシスがいるのが見える。


 リオンとのやり取りではおどおどした印章だったというが、今は真っ向から対峙しても物怖じもせず、こちらを睨みつけている。


「お待ちしていました。エリック様、レナン様」


 イシスはそういうと前に進み出る。


「ヴァルファル帝国の皇女としてあなた方を歓迎します。そして是非友好を図りたいのです」


「友好だと?」


 何を今更と増々警戒心が高まる。


「えぇ、そちら側にも有益な話かと思いますよ。このまま争いを続けてもあなた方に勝ち目はない。ならばここで降伏した方が身のためです。帝国の傘下に下ると言うならば、命は助けてあげてもいいですわ」


 そう語るイシスの言葉に、エリックが了承するはずがない。


「断る。例えここで助かったとしても、どうせ魔法で命を掌握されるだけだ。ならばどのみち行末は同じだろう、殺される事に変わりはない」


「そのような事は致しません、あなた方は大事な賓客ですから」


 エリックと、そしてレナンを見遣る。


 イシスはとても落ち着いていた。


 リオンと会話した時とは違い過ぎるほどに。


「断る。俺達は帝国に下るつもりはない」


 イシスの言は信用ならない。


「そうですか。そうですよね」


 イシスはもとから説得が上手くいくとは思ってなかった、故に言葉に熱意もない。


 ただ皇帝に言われた通りに伝えただけだ。


「お兄様達が現在アドガルムに侵攻してるのを、ご存知の上での言葉ですよね?」


 確認のために放たれたイシスの言葉にレナンは驚愕の表情となる。


「そのようだな、行き違いになってしまった」


 エリックは先程ニコラに知らされて、そのことを把握していた、だからレナンを帰すのを断念したのだ。


 どこにいても危険であるならば、せめて目の届くところに置いておきたい。


「ならば、始めましょう」


 イシスとギルナスが構える。


「たった二人で何が出来る?」


 伏兵の存在も考慮しない訳では無いが、そう問うてみた。


「たった二人……されどその二人にやられるというのも屈辱だと思いませんか?」


 イシスが笑う。


 何を意味する笑みなのかはわからない。


 だが、戦う意志だけは汲み取れた。







 エリックは剣を構え、どう指示を出すか、考える。


(イシスとギルナスか。見た感じでは典型的な後衛と前衛だと思ったが)


 リオンと対峙した時の姿ではそうだった。


 だが、どんな手を隠し持っているかわからない。


 二人でいいという自信と、ギルナスの影に隠れる事なく前に出ているイシス。


 前髪を上げ、顕にされたイシスの金の目も気になる。


(魔力が高い証だが、何が出来るのだろうか)


 どのような魔法を使用できるのだろう、先の戦いでは回復魔法と転移魔法しか見ていない。


 この訓練場を選んだという事だが、それにも意味はあるのだろうか。


「ふつうの場所よりは頑丈に作られているところだ、激しい闘いにも耐えうるだろう」


 外のあの場ではなく、ここに呼ばれた。


 何の意図もないとは思えない。


「ニコラはイシスを、オスカーはギルナスを頼む! 他のものは二人の援護を、ただし深入りしすぎるなよ!」


 エリックはキュアに目配せをする。


「レナンを任せたぞ」


 そういうとエリックは魔力を放出し、氷の波を作り出す。


 それらは地面を割りながら、凄まじいスピードでイシスとギルナスに迫っていった。






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