第134話 血の軌跡

「ありがとう、カミュ」

 リオンの体を温かな光が包む。


 サミュエルの回復魔法だ。


「どうしてすぐに呼んでくれないんですか?!」


 ウィグルが魔力を解き放つと、大量の水が現れ激流が渦巻いた。


「ちっ!」

 突如のリオンの部下たちの出現に、ダミアンは退いて距離を取った。


 カミュもリオンの腕を掴むと、影渡りの魔法で一旦後退させる。


「あいつが相手とは、分が悪いですね」

 マオも苦い顔をしていた。


 ダミアンの狂気は恐ろしい。


 敵味方関係なく動く為、ダミアンの攻撃はこちらの予想のしないものとなる。


「何とかするしかない。皆気を付けて応戦してくれ」

 リオンは再び薙刀を構える。


「雑魚なんていくら来ても無駄だよ」

 ダミアンの両腕がかき消える。


「マオ様、離れてはなりませんからね」

 ウィグルも初陣ながら、懸命に食らいつく。


 突如として現れた攻撃をウィグルも受ける。


 ダミアンの一撃は重く、早い。


 訓練とはまるで違う重みと一撃だ。


(これが戦争、これが人を殺すということ?)

 まともな神経ではやっていられない。


 一度芽生えた恐怖はなかなか払拭されない。


「僕のマオを狙わないでほしいな」

 怒りに満ちた声で、ダミアン本体を狙う。


 リオンとカミュは連携を取りつつダミアンを攻めるが、生粋の剣士ではない二人の剣は届かない。


「そんなものか?」

 ダミアンが魔力を解き放つと再び無数の剣が現れた。


 それらが一斉に空に消えると、周囲に斬撃の嵐が吹きすさぶ。


(この剣はどうやって動かしてるんだ、転移術の組み合わせもどのような魔法で? あぁもう、どこから現れるか予測がつかない!)

 リオンは魔法の仕組みがまだ解けない。


 ダミアンは全く味方に気を付けるつもりはないから、このような攻撃が出来るのだろう


 帝国兵だろうがアドガルム兵だろうが、殺すのはお構いなしなようだ。


「皆、何とか避けてくれ!」

 引くことも近づくことも出来ない。


「第三王子、お前はやはりつまらん! お前の妻もいらん!」


「いけない! 伏せて!」

 サミュエルは防御壁を広範囲で張るがどうしても優先順位が出る。


「皆!」

 帝国兵、アドガルム兵、共に巻き込む強力な攻撃が放たれた。


 無差別に、そしてあらゆる方向から斬撃が降り注ぐ。


 サミュエルの防御壁が行き渡らなかったもの、魔力が低く防御壁でも防げなかった者はダミアンの凶刃に倒れていく。


 サミュエルに守られたウィグルは、それらを青ざめた顔で見るしか出来なかった。


「やだ、皆……嘘だ!」

 一緒に訓練をし、ご飯を食べた者たちの無惨な姿はウィグルの心を更に抉る。


(許せない、こんな事は許されない!)


「ウィグル、油断するな!」

 カミュが声を張り上げたが、耳に入っていないようだ。


「うわあぁぁ!」

 無謀にも剣を手に突っ込んでいくウィグルを、ダミアンが鼻で笑う。


「これが騎士? まるで弱いじゃないか」

 ウィグルの攻撃など余裕で受け止め、はじき返す。


「くぅ!」


「力、技術、経験、何もかもが比べ物にならない! 少々人が死んだからと言って取り乱す、その精神も惰弱だ」

 ライカとはまるで違うと、虫けらでも見るような目でウィグルを見下す。


「つまらないな、お前も」

 遊ぶ価値もないとダミアンは止めを刺しにかかった。


 無数の剣がウィグルを襲う。


「ウィグル!」

 転移で現れたサミュエルがウィグルを庇う。


 防御壁を張るものの、それよりも早くダミアンの剣がサミュエルの体に到達する。


 仮面とフード、そして顔を切り裂いた。


「サミュエル様!」

 衝撃でサミュエルの体が弾かれる、空を飛ぶ血の軌跡がウィグルの目に入る。


「……爆ぜろっ!」

 倒れながらもサミュエルは攻撃魔法を放った。


 無数の爆発が発生するが、ダミアンはそれすらも回避する。


 しかし下がらせることには成功した。


「サミュエル、生きてるか?!」

 リオンの声かけにかろうじて返答する。


「大丈夫です……」

 弱々しい声ながらもサミュエルは傷口を押さえ、蹲って応えた。


「すみません、僕のせいで……」

 自分のせいで怪我をしたのだ、申し訳無さにウィグルは震えていた。


 すぐにサミュエルの側に駆け寄ろうとするが。


「来るな、自分の身を守れ!」

 サミュエルの一喝にウィグルが止まる。


 隙だらけになったウィグルに向け、歯を食いしばってサミュエルは防御壁を張った。


 剣が弾かれる音が響く。


「痛いだろうに、よく人の事を見れるね」

 ダミアンの剣に狙われていたのだとウィグルは気づく。


 激しい空気の震えが残っていた。


「自分の事に集中するです、このままではサミュエルが回復出来ないのです」

 マオが剣を片手に側に来る、慌ててウィグルは防御壁を張った。


 リオン達が時折邪魔してくる帝国兵を打ち倒しながらダミアンに迫るが、なかなか刃が届かない。


「お前らを倒せば次はあの第二王子だ。ミューズも手に入れてやる」


「何かムカつく……」

 全くマオは目に入っていないようだ。


 狙われたいわけではないが、腹立たしい。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る