第133話 斬り合い(ダミアンとリオン
対峙したダミアンは容赦なく、斬り掛かってきた。
「正面から来るとは思ってなかったな」
リオンはギリギリで、ダミアンの一撃を受け止める。
その手に持つのは剣ではなく、薙刀と呼ばれるものだ。
「何だそれは? 非力なお前にお似合いな武器だな」
薙刀はリーチもあり、力のないものでも振り下ろせば斬りつける事が出来る。
「利便性があるからいいんだよ」
リオンが魔法を唱えるとダミアンはすぐさま距離を開ける。
「ギルナスとイシスからお前は厄介な魔法を使うとは聞いている。だが、腕力が致命的に足りない。だから僕が来たんだ」
ゆらりとダミアンの姿がブレる。
「?」
初めて目の当たりにしたが、きっとこれがダミアンの、転移術を使った攻撃なのだろう。
「ティタン兄様に比べたら、お前もないに等しいよ」
一か所にいるのは危険だと、リオンは走り出した。
追加で現れた帝国兵の中を突っ切っていく。
「どけぇ!」
リオンは薙刀を振り回しながら、無理やり突き進んだ。
帝国兵を盾にしようとわざと入り込んだのだ。
「そこまで精度の高い動きが出来るわけではなかったよね」
ティタンとの戦いでも無駄な攻撃は多かった。
そしてエキセントリックな現れ方をしていたことを覚えている。
悪寒を感じ、リオンが咄嗟に転移術を使い、避ける。
「避けるなよ、手間がかかるじゃないか」
「……やはり敵味方ないんだな」
ダミアンが屠ったのは先程までリオンがいた場所だ。
取り囲もうとしていた帝国兵達が血を流し、苦鳴を漏らしている。
「ダミアン様……何故?」
怯えた声で帝国兵達がダミアンを見る。
リオンを囲むことも忘れ、味方と思っていたダミアンに向けて恐怖と敵意が膨れていた。
「そこにいたからだ。アドガルムの第三王子を始末するのに、お前らなんぞに構っていられない」
そう言ってまたダミアンが消える。
(速度が違う、手慣れているな)
リオンはまだあそこまで転移魔法を使いこなせていない。
薙刀を握り、防御壁を張る。
「死にたくなければ僕から離れ、アドガルムに投降しろ! こんな殺人狂に従う事はない!」
さすがに敵とは言え、不憫だ。
それにこれで戦意を喪失したものを引き込めるかもしれない。
血を流すものが少なくなるのならば、その方がいいだろう。
「何を勝手に命令している?」
ダミアンの剣が防御壁にあたり、凄まじい音が鳴り響く。
「黙れ、お前なんぞに従っても命がないのならば、助かる道を提示するのが僕の役目だ。民を守るのは王族の義務だからな」
身体強化の魔法をかけて、ダミアンに切りかかるが、その攻撃は当たらない。
「従っても命がない? 違うな」
逃げ出そうとしていた帝国兵が次々と血を流し、倒れていく。
「逃げても命はないんだよ、こいつらに人権何てない。あるのはお前を殺せという命令だけだ」
ダミアンは狂った目で帝国兵を見回す。
「こいつを殺せ。ここから逃げだせば僕が殺す、この第三王子の首をとるまではこの場から離れるのは許さん」
簡単に人の命を奪うダミアンにリオンは怒りしか覚えない。
「聞きしに勝る、くそ野郎だ。お前なんか僕が殺してやるよ」
「出来るわけがない。お前は普通の人間だ。兄二人になど到底追いつけない、平凡な男だよ」
ダミアンの嘲笑にリオンは笑顔を張り付けたまま距離を詰める。
「知ってるさそんな事。お前なんぞに言われなくともな」
リオンは武器を握り、ダミアンに向かって駆ける。
「非力で脆くて、何の一番にもなれない。優秀な兄達と比較されてずっと生きてきた。だがそれがどうした?」
リオンの姿が消えた。
「非力でもなんでも、お前を殺せれば僕の勝ちだ」
ダミアンの背後から切りかかるが、剣で受け止められる。
「それは無理だ、弱すぎる」
ダミアンの猛攻が繰り出される。
「くっ!」
剣を受け止め、攻撃を受け流すが、防ぎきれない。
リオンの体に傷が増えていく。
「お前では俺には敵わないと何故わからない?」
下卑た笑いを浮かべたダミアンの一撃を黒い剣が受ける。
「そんな事はない。リオン様は強いからな」
カミュの剣がダミアンの一撃を止めていた。
「カミュ」
「遅くなり、申し訳ございません」
サミュエルやウィグル、マオも来ていた。
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