第86話 仕切り直し
「どうか落ち着いてくださいな」
そう言ってミューズは新たに防御壁を張っていた。
「叔父様は私の為を思ってこのような事をしたのです。私も謝罪致しますので、どうか怒りを収めてください」
ロキとティタンの間に立ち塞がる。
「……君にそう言われたら引かざるを得ない」
眉間に皺を寄せながらも、ティタンは腕をおろした。
「だが、ロキ殿を許してはいないぞ。ディエス殿の件もだが、もう少し機会を伺って話してはどうだったのだ。気遣いの感じられない一方的な話ぶりと、此度の騒動。納得はいっていない」
拳は握られたままだ。
「あれはティタン王子もいたから話した。俺様が身内であれば、少しは信用もなるかと思ってな」
ロキが弁明するが、聞く耳は持てない。
「勝手に妻を戦場に連れていく男など、何を話しても信用などならん」
怒りの表情は全く収まらない。
「まぁまぁ。ティタン、私は無事だったからのだから、落ち着いて」
「落ち着けるわけないだろ!」
周囲のものなど関係なく吠える。
「急に現れ、実の親だという知らない者の話をされ、説明もなく妻を目の前で連れ去られた。それから三日も音沙汰なく、そして帰還も急なものだ。どう落ち着けと言うのだ」
頭を抱えるティタンにミューズは掛ける言葉を探す。
「もう許可なく離れませんので、どうか許してください。私もロキ様に教わり転移魔法を習いました。なので今後はすぐにティタン様の元へ伺えます」
その言葉にどよめきが生まれた。
「君もその魔法を会得したのか?」
「えぇ。なので移動の際はお任せください。私もティタン様の力になれます」
「そこまででミューズ様。重要な話は報告がてら、陛下の下で行いましょう。ここでは目立ちますし、各々少し身を整えてからにしませんか? 僕も帰って来たばかりなので身体を整えたいですね」
リオンの言葉に、ミューズも気づく。
ここは鍛錬場で、大事な話をするにはそぐわない。
「防音魔法は施しましたが、仕切り直しは必要ですね。グウィエン様もいらっしゃいますし」
「俺も聞きたかったなぁ」
不満そうなグウィエンだが、大人しく客室へと案内される。
一応賓客扱いだ。
「ミューズも着替えよう。すぐチェルシーに湯浴みの用意をさせるから」
ティタンに腕を引かれ、ミューズも足早にこの場を去る。
「マオも少し部屋で休もう、長旅ご苦労様」
リオンの労いに伸びをする。
「疲れたです、でもリオン様も無茶しちゃだめですよ。ウィグル一緒に来るのです」
欠伸をして、マオはウィグルと暫くぶりの自室に戻る。
「兄様。父様に話す前に先に色々報告をしたいのですが、大丈夫ですか?」
「聞こう。しかしマオ嬢は雰囲気が変わったか? リオンに対しての対応が柔らかくなったような」
「それも含め、色々お話したいです」
照れくさそうに微笑んだ。
リオンからも何か張りつめていたものが取れた気がする。
「俺様もエリック王太子に話しがあったんだが、先に良いか? レナン妃についてなんだが」
ロキの言葉にエリックの表情が引き締まる。
「レナンに関してか。ロキ殿、それは本人もいた方がいい話でしょうか」
「そうだな。レナン妃の魔法についてだから。誰まで話せばいいかは俺様では判断がつかない、エリック王太子が信頼に足ると思う者を、同席させればいいのではないか?」
どういう話になるかエリックには見当がつかない。
「まずは俺とレナンで。リオンすまない、また後で聞こう」
優先すべきはレナンの事と判断する。
「僕の方は大丈夫です。それでは兄様、ロキ様。また後で」
リオンは礼をし、その場を去る。
「親父殿、キール。また後でな」
「けしてエリック様に失礼な態度をとるんじゃないぞ!」
シグルドの怒声を背中に浴びながら、エリックと共にその場を後にした。
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