★第7節目★

「って夢を見たんだよ」

「へ~、そうなんだ?」


 夢から覚めるとすぐ、俺は先ほど見たばかりの夢を詳しく話して聞かせた。

 相手はもちろん、美沙だ。

『何おかしなこと言ってんのよ』とばかり言われると思っていたのに、美沙は思いのほか真剣に俺の話を聞いて、最後には満足そうに笑ってさえいた。

 だから。

 俺が最後に聞いた【魔王】の言葉は、敢えて省略しておいた。


「ツヨちゃんさ、やっぱり強いね」

「え?なにが?」

「心が」

「なんで?」

「だって、さ」


 ペシペシと俺の体を触りながら、美沙は言う。


「こんな『もやしのような体』で、モンスターとか魔王とかに、立ち向かって言ったんでしょ?私を助け出すために」

「そりゃ・・・・まぁ、な?だってほら、美沙のピンチだったし」


 なんて言いつつ。


(「俺でさえまだ美沙にしていないのに、どこの誰とも分からんヤツに先越されたくなかったからな」なんて、言えねぇよなぁ・・・・)


 と、心の中でコッソリと本音を暴露。


 そんな事とは露知らず。

 美沙は恥ずかしそうに微笑みながら、俺にピタリと体を寄せてきた。


「ツヨちゃんになら、いいかな」

「ん?」

「私の『初めて』、あげても・・・・」

「・・・・えっ?」


 あまりに突然の事に、俺の頭が追い付かない。


「ちょ、ちょっと待て。えっ?今っ?!だって今、朝だしっ!時間無いしっ!」

「ん~・・・・それもそうだね?じゃあ・・・・今夜?」


 うふふ。

 などと色っぽく笑いながら、美沙はベッドを降りてキッチンへと向かった。

 1Kの狭い部屋だ。俺のいるベッドから美沙が朝飯を用意している姿も良く見える。


(でも、いきなりどうした?なんでこんな突然・・・・?)


 朝飯ができるまでもうひと眠りしようと、ズレた枕を直すべく枕の下に手を入れると、何やらそこには紙のようなものが。


(・・・・なんだ?)


 引っ張り出したものを目にした俺は、しばし固まった。


(なんだ、これ・・・・)


 枕の下にあったのは、数枚の紙の束。

 一枚目の紙に描かれていたのは、見紛うことのない、【魔王の城】への曲がりくねった坂道と大男。

 二枚目の紙に描かれていたのは、これまた見紛うことのない、オノを持った番人の姿。

 三枚目の紙に描かれていたのは、しつこいようだがこれまた見紛うことのない、【モンスター】たちの姿。

 四枚目の紙に描かれていたのは、くりかえししつこいようだが絶対に見紛うことのない【魔王】の姿。

 そして。

 五枚目の紙に書かれていたのは。

 ある歌の、歌詞。

 美沙も俺も大好きな曲ではあったが、思い起こしてみれば最近、この曲をやたらと聴かされていたような気がする。


「ツヨちゃん、朝ご飯できた・・・・あーっ!」


 慌てた様子で美沙が俺のそばにすっ飛んできて、俺の手から紙の束を奪い取る。


「・・・・見た?」

「ああ。バッチリな。どういうことだ?説明してくれ」

「・・・・へへっ」


 きまり悪そうな顔で美沙が話したところによると。

 念を込めて描いた絵とストーリーを書いた紙を枕の下に入れて寝ると、そのストーリーに沿った夢を見る事があるとのこと。

 美沙は俺の美沙への想いを試したくて、俺たちが好きな曲をヒントに絵を描き、歌詞と共に昨晩俺の枕の下に入れたらしい。


「友達とね、試してみようってことになって」


 美沙の言葉に、ふと、即席の相棒の事が頭によぎった。


「なぁ、その友達の彼氏って、どんなヤツ?写真とか、ある?」

「ん?確かあるけど・・・・なんで?」

「いいから」


 不思議そうな顔の美沙から見せてもらった、その友達の彼氏の顔はまさに、俺の即席の相棒の顔。


(ってことはあいつ・・・・もしかしてこの先破局する、かも?)


「でもすごいね、効果テキメンだね!まさかこんなに上手くいくとは思わなかったよー!」


 はしゃぐ美沙をよそに、俺は1枚目の絵を見ながら小さく呟いたのだった。


「やっぱり、『君が捕われの身なんて たとえ夢にも思えない』だよなぁ、ほんとに」


【完】

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