★第3&4&5節目★

(これは、なんだ?異世界か?ファンタジーか?頼むから、夢なら早く覚めてくれ・・・・)


 城の中に入った俺は、壁に背を預けて目を閉じた。

 そうしていれば、いずれ夢から覚めるような気がして。

 いや。

 夢から覚めてくれと、祈るような気持ちで。

 けれども。


 キャアァァァっ!


 その間にも、悲鳴は断続的に聞こえて来た。

 確実に、すぐそばであろうと思われる場所から。

 そして。

 どれだけ目を閉じてじっとしていても、再び目を開けた目の前の景色が変わることは無かった。


(ウソだろ、これが現実な訳、無いよな?別に俺、転生希望者じゃねぇぞ?仮に死んだとしたって、こんな転生なんてまっぴらごめんだっ!)


 目の前で、ゆっくりと人間ではなくなっていった即席の相方の姿が頭によぎる。


(あいつだって、大事な彼女を助けに来たはずなのに、な)


 もしかしたら、あれは自分だったかもしれない。

 そう思うと、体の奥から震えが走る。

 もしそうだったとしたら。

 今、時計の針は11時を指している。

 ということは。

 1時間後には、美沙はどこの誰とも知らないヤツの嫁にされ、一生もて遊ばれてしまうのだろう。


(イヤだ。そんなの、絶対にイヤだっ!)


 大きく首を振り、そして俺はふと思った。


 だけど。

 彼の彼女は?

 彼がああなってしまった今、一体誰が助けに行くと言うのだろうか。


「美沙・・・・」


 逢いたい。美沙に、逢いたい。

 言葉にならない想いが、体中を満たす。

 すると。

 今までに一度も見たことのないはずの美沙の泣き顔が、突然俺の脳裏に浮かんだ。


『助けて、ツヨちゃん・・・・』


 ビリビリに破られた純白のウェディングドレス姿で、涙を流しながら俺に助けを求める美沙の姿。


「美沙っ!」


 体の震えが止まらない。

 この震えは、恐怖からなのか、怒りからなのか、それとも。

 愛しさから、なのか。


(俺が行くまで、もう少しだけ頑張ってくれ。必ず助けに行くから。大丈夫。大丈夫だよ、美沙)


 よしっ、と気合を入れて、そっと城の内部を探る。

 なんだか、何かのゲームやらマンガやらで見たことのあるような、いわゆる【モンスター】的なものがチラホラと見受けられたが。

 恐らく、目指す場所は【城の最奥の部屋】。

 ならば今、そこまでのルート内に【モンスター】的なものの姿は無い。


(今だっ!)


 意気込んで足を一歩踏み出したとたん。

 城内に、警報音のような非常ベルのようなイヤな音が鳴り響いた。


(大丈夫、これはファンタジーだ。このファンタジーの世界で、俺が死ぬわけが無い。きっとこの棒で叩いたところで、痛くもかゆくも・・・・)


 響き渡るベルの音に、どこから湧いて出たのかと思うほどの【モンスター】的なものたちがワラワラと集まってくる。

 それを横目に、俺は手にした木の棒で思い切り自分の頭を叩いてみた。


「いってぇっ!」


 結果。

 目から星が出るほどの痛さが、脳天を突き抜けた。


「ファンタジーなんじゃねぇのかよっ!夢なんじゃねぇのかよっ、これっ!」


 あまりの痛さに頭にきて、思わず口から飛び出した言葉ではあったが。


(ってことは・・・・美沙のやつ、本当に・・・・)


 心臓を鷲掴みにされたような感覚だった。

 これが本当に現実ならば、美沙も俺も絶体絶命のピンチということになる。

 俺が美沙を助けに行くことができなければ、美沙は・・・・

 美沙を助けに行くためには、俺はこの気が遠くなるくらい集まってしまった【モンスター】たちを、まずは蹴散らして進まなければならない訳で。

 手にしたこん棒と、薄っぺらい鉄の盾だけを頼りに。


『助けて、ツヨちゃん・・・・』


 脳裏に浮かぶのは、美沙の泣き顔。


「しゃあない・・・・行くぞっ!」


 うぉぉぉっ!

 っと。

 柄にもなく雄たけびを上げ、俺はこん棒を片手に【モンスター】の群れの中へ単身飛び込んだ。

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