或る女の話 五日目

 彼ったらお茶目ね。死んでからも私を笑わせようだなんて。だって、真っ白なウジが彼の鼻から出たり入ったりするのよ。最初はつまんなくてもずっと見せられたら笑っちゃうわ。

 このウジ達は彼の事を食べて成長するのよね、それってつまり彼の肉体がそのままこのハエになるって事だわ。それならこのハエ達は彼の分身と言っても過言じゃない。ずっとこの部屋で飼ってやろうかしら、彼よりもずっと私の前に居てくれそうだし……


「おい、それは違うだろ。俺の意識は別だぜ。ハエは本能に従って動くだけだ。虚しくならないか?」


 彼がそう反論してるような気がして、また笑った。けど素敵じゃない?火葬されて、骨灰になって何処かにばら撒かれるよりも、ずっと肉体が生命の循環の中で有効活用されてる感じがする。

 ねぇ貴方。私、貴方が死んでも火葬したくなかったわ。なんならミイラか剥製にして、部屋に飾っておきたかったのよ。こんな形で看取るのは理想じゃなかったけど、いま私とっても幸せな気分よ。貴方が死んでからずっと見てるけど、幾ら醜く腐っていったって私は貴方をちゃんと愛しく思えてるもの。

 どうかしら?死んだ貴方はいまの私の事を見ていてくれているかしら?ちゃんとこの私の行動を、愛されていたと受け取ってくれるかしら?それとも死んだ瞬間から、貴方の意識はもうこの世から消えてしまっているの?私の行動はただの宗教的な儀式に過ぎないのかしら……

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