或る女の話 四日目

 彼の目はもう萎んでいる。ハエが産み付けた卵が孵ったらしく、幼虫の蠢きで時折瞬きの様な仕草をするのが可愛い。

 虫の卵って孵るのが早いのね。いくら退治しても減らないわけだわ。害虫に分類される種類のは特に、繁殖の量も多いわね。

 昔、彼が料理をカビさせた時のことを思い出した。私が作った手料理を冷蔵庫に入れて、分けて食べようとしたのだ。「まだ三日しか経ってないのに最後の分がカビちまったんだ」そう言って悲しそうに俯く彼をどれほど愛しく思ったことか。「また作ってあげるわよ」そう言ったのに「ごめん」と彼はただ謝っていたっけ。

 細身寄りの彼の体は、もうビール腹の中年親父くらいに浮腫んでいた。寝巻きの隙間から、青緑色のカビた様な色のブヨブヨとしたお腹が顔を出している。可愛い、と私は思った。彼は信用していなかったけど、私は彼が中年太りしようが、禿げようが、愛していける自信があった。実際にそんな様相を呈してきた彼の死体を目の前にしても、可愛いと思えている。


「ねぇ貴方、私はちゃんと貴方のことを想っていたわ。愛していたでしょう?」

"ズルリ"


 返事をする様に、彼の左目から眼球が抜け落ちた。


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