或る男の話 四日目

 ぶうぅーーーんぶぅん……


 最悪だ。連日の熱帯夜の為に急速に進んだ彼女の腐敗の感想ではない。はだけて見えていた彼女の下腹部の静脈が浮き出し、皮膚が青緑に染まったのは寧ろ美しく思えたし、ガスによる皮膚の膨張……巨人様観と言ったか、それが起きてからの彼女の姿も俺の目にはまだ愛しく見えた。


 しかしハエはダメだ。どこから入り込んだのか、クーラーが切れてから気付くとハエが一匹、部屋に入り込んでいた。彼女と俺だけの空間に、外野から生物が入り込んできた。頼むから出て行ってくれ。そんな願いも虚しくハエは彼女の身体を雑に這い回る。目、鼻、口。生きている人間ならば手で振り払う場所を無造作に飛び回り着地し、徘徊した。彼女は優しく微笑んで、無邪気な一匹の虫をただ受け入れている。

 俺は彼女に触れることが出来ない。ただ見ていることしか出来ない。なんだか彼女が穢されていくようで悔しかった。どうしてそうやって俺たちの仲を掻き乱すんだ。それが自然の摂理だと理解していても、感情的にならずにはいられなかった。漸く手に入れた二人だけの時間なんだ。それに水を差してくれるな。頼む……

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