或る女の話 三日目
「ちょっと暑くなってきたわね……」
彼の蒼白の顔面が、鮮やかなオレンジ色に染まっている。夏のこの時期、西陽がちょうど当たる部屋はクーラーがないととても暑かった。ベランダのカーテンを閉めるべきだったかしら、けれどもう動くのも面倒だわ。
彼の瞳の中の茶色い虹彩を観察する。普通、死体の眼球は二日後には濁っちゃうって聞くけど、いつもより赤く見えるのは夕日のせいかしら?なんだかおかしいわね。もう少しよく見てみましょうか。あら?眼球全体が紅く染まっていってるみたいな……あらあら、大変!血じゃないの。内出血?寝不足しちゃダメって言ってたのに……いや、違うわね。これは多分、私が花瓶で殴ったせい。後頭部の外傷はこちらからは見えないけど、かなり酷いのかしら。
死体の腐敗は基本的に胃をはじめとした消化器官から進んでいく。胃液が内臓までも溶かしていってしまうからだ。その後、肺や腸に溜まったガスから内臓の膨張が始まり、身体全体が膨れ上がっていく……
外傷がある場合、血流が止まっていて細菌の増殖も止められないのでその部分からも死体の損壊が始まっていく。彼の後頭部が出血していて、内部の露出を伴うような傷口になっていたとしたら、三日も放置していれば腐り始めているだろう。もし頭蓋骨にヒビでも入っていて、そこから直接脳が外気に触れていたら……脳の腐敗で頭にガスが溜まって、眼球を圧迫したのかも知れないわ。
まぁ、まだ私の目には素敵に映ってるから通報はしない。ひと目見て彼だと分かるしね。もし『ゾンゲリア』や『ペットセメタリー』みたいに死んだ人を蘇らせた時に貴方がこの状態だったとしても、私は許すもの。
ぶううぅーーーん……
クーラーが止まったせいかしら、外からハエが飛んできたわ。耳元でうるさいったら。ちょっと、彼の方に行くのはやめて。私が遊んであげるから。待ってよ、虫が集ったら余計に死体っぽくなっちゃうじゃない。私は彼の事を見ていたいの。彼に付く虫は余計なのよ、やめて!やめてよ……
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