第2話 串焼きの食レポ

 翌日、アタイはまた町に来てクシヤキ串焼きの店に向かった。


「おっちゃん、クシヤキをくれ。」


 そう言って、銀貨を渡す。


「お、昨日の嬢ちゃんか…………。」


 おっちゃんは少し思案したあと、アタイにこう言った。


「嬢ちゃん、一つ商談があるんだが、いいか?」

「ショウダン?なんだ?食い物か?」


 アタイがそう言うと、おっちゃんはガッハッハと笑って、


「嬢ちゃんはぶれねえな。商談っていうのは、頼みごとをやってくれればお礼のものをやるって話だ。内容は串焼きを100本やるから店の前で食べてくれないか?食べてくれるならその串焼き代は要らないってことでどうだ?」


 ほう、ショウダンっていうのは商いをやりたいってことか。ドラゴンにそんなこと言うヤツはおらんから失念してたな。


「それだとおっちゃんの方が圧倒的に損なのではないか?」

「おっと商売に関しては理解してたか。普通はそうなんだが、嬢ちゃんが串焼きを美味しそうに食べてるのを見て串焼きを買っていくやつが多くてな、昨日の嬢ちゃんが食べてる間の売り上げが5倍近く跳ね上がったんで、それを見込めば嬢ちゃんに串焼き100本奢ってもお釣りが来るさ。嬢ちゃんさえよければ食べてる姿をみんなに見せて客を呼んでほしい。頼めるか?」

「そうか……、ならおっちゃんに串焼きを奢られる代わりにここで食ってやるよ。」

「おう、よろしくな。」


 こうしてアタイはクシヤキ串焼きの屋台の前で悠々とクシヤキを食べることになった。





「さあさあ、串焼きはどうだ。うまいぞ。」


 そう声をあげながらクシヤキ串焼きを焼くおっちゃんの屋台の近くでアタイはクシヤキを頬張る。


「ほふほふ。」

「お嬢さん、ちょっといいかな?」


 アタイがクシヤキを頬張ってると、髭がピンと立った男が声を掛けてきた。


「ほふ?」


 アタイはコテっと首を傾けた。


「ああ、食べ終わってからでいいんだが、お嬢さんが食べているそれはなんだい?」


 なるほど、アタイが食べているクシヤキが美味そうだから聞いてきたのか。よし、クシヤキの分、仕事をするか。


「もぐもぐ、ごくん。これはクシヤキっていって、そこの屋台で売ってるよ。」

「そうか、お嬢さんがあまりにも美味しそうに食べてるんで気になってね。」

「ああ、美味いぞ、このクシヤキは。この香ばしい匂いもそうなんだが、この肉を頬張り噛んだとき、パリっていった食感と、口の中にぶわっと広がる肉汁のハーモニーがたまらん。そして、この香ばしさの元になっている甘辛いタレが肉汁と合わさり肉汁の旨味を引き立て、更にタレの辛み自体が食欲を増して何本でも食べれてしまう。アタイはこの屋台に出会うまでこんなに美味いもんを食べたことなかったから、その分余計に美味く感じてるかもしれんがな。」

「お、おう。……なんと言うか、お嬢さんの解説を聞いて食べてみたくなったよ。ありがとう。」


 そう言うと髭のおっちゃんは頭を下げた。


「どういたしまして。…………それはそうと、そんなことする前に並んだ方がいいぞ。」

「えっ?」


 髭のおっちゃんの後ろには、屋台に並ぶ行列ができていた。アタイの解説を聞いてたまらなくなりクシヤキを買うために並び出したのだ。こうしている間にも行列は伸びている。


「確かに早く並ばなければならないね。ありがとう。……ところで、お嬢さん、お名前を聞いてもいいかな?」

「ああ、かまわんよ。アタイの名前はフィアだ。」

「私の名前はダルトンという。名にか困ったことがあったら私が手助けをしよう。」

「ああ、ダルトン、そんなことよりクシヤキの列が伸びてるぞ?」

「おお、そうだな。では私も並ぶとしよう。では。」


 頭を下げ行列の最後尾に並ぶダルトン。しかし変わったやつだなと思いつつ、アタイはクシヤキに舌鼓を打った。

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