第3話 祭の終わり

 次の日もアタイは夕方までかけてゆっくりとクシヤキ100本を味わいつつ、不自然にならないようにクシヤキのおっちゃんのところに人を誘導していった。


「嬢ちゃんありがとうな。今までで一番の売り上げだったよ。」

「そいつはよかった。まあ、アタイは食べてるだけだったがな。」

「……食べながら俺の屋台に誘導していたのは知ってるさ。」

「……そうか。明日もクシヤキ100本頼むぞ。」


 アタイがそう言うとおっちゃんは目を見開いて驚く。


「おいおい、祭は今日までだぞ。」

「……祭?」

「ああ、俺がここに串焼きの屋台を出していたのは今日まで祭だったからだ。」

「……そうだったのか。」

「ああ。……ということは何の祭かも知らないよな。」

「そうだな。」

「じゃあ、教えてやるよ。」

「頼む。」

「あそこに山があるだろ。あそこにはドラゴンが住んでいるといわれている。その昔あの山に赤いドラゴンが住み着いたとき、冒険者たちがそのドラゴンを狩ろうと押し寄せてきたことがあったんだ。だが、冒険者たちはそのドラゴンに歯が立たず、一部の冒険者が命からがら逃げてこれただけだったそうだ。10以上のパーティーが全滅したと聞いている。この町一番の冒険者でも歯が立たなかったわけだ。このボルスの町はあの山の麓にある町だ、いつ山に住むドラゴンが襲ってくるかもしれない。町を捨てて他の場所に逃げることも考えたんだが、その時の町長の娘がこの町を襲わないように自分を生け贄に交渉すると言い出したんだ。他に案もなく、町長の娘が山に出向き交渉をしたところ、その山にいたドラゴンがこう言ったそうだ、『自分に襲いかかってきた人間を倒しただけだ。襲いかかってこないなら別にかまわない。』と。それからは毎年あの山のドラゴンにこの土地に住まわせてもらっている感謝をする祭を行い、その時に町で育てた家畜をドラゴンに捧げる事になったそうだ。だがある年、この地方に大飢饉が起こり祭りを行えないことがあったそうだ。それでもドラゴンへの捧げ物を用意しなければならないというときに、その時の町長の娘が『自分が生け贄になる』と言って山に入ったそうだ。その翌日の夜、ものすごい風切り音のが聞こえたと思うと町の広場にオークの死体が2つと、前日行方不明になった町長の娘がいたんだと。で、その町長の娘の話によると、事情を聴いたドラゴンが『別に捧げ物はいらん。今後は来なくてもいい。』と言って、オークを狩って町まで送ってくれたという。それからはドラゴンへの捧げ物もなくなり、ドラゴンに感謝する祭としてこの赤竜神祭が残ったということだ。」


 おっちゃんはアタイが住んでいる山を指差しながら教えてくれた。


「アー、ソーナンダー。」


 思わず片言になってしまう。そりゃそうだ、心当たりがありすぎる。

 確かに数百年前、冒険者がひっきりなしに襲ってきた頃に人間の娘が来てそんなことを言っていたなあ。そして、百年ちょっと前かな、別の娘が来て『私を食ってくれ』とうるさかったから事情を聴いてちょいとオークを狩って夜中に町の広場に置いていったことがあったなぁ。うん、この赤竜神祭で祭られてる赤竜神ってアタイだ。


「で、今日が祭の最終日と?」

「そういうことだな。俺はまた別の町で屋台をするから、この町で屋台を開くのは来年だな。」

「そうか、寂しくなるな。」

「また、来年来るよ。」

「その時はクシヤキ100本よろしくな。」

「おう、まかせとけ。」


 そう言っておっちゃんは店を畳みはじめる。明日にはこの町を去るそうだ。


「さて、アタイも山に帰るか。」


 町の外に出たアタイは、自分の住処まで飛んでいった。来年になったらまたクシヤキ食べに来よう。

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