第1章 祭とドラゴン

第1話 麓の街

 アタイがまだ若かったとき、アタイはボルジィート山の中腹の洞窟に居を構えていた。少し前まではアタイを倒しに来た冒険者がよく来ていたのだが、ここのところ来ていない。それで暇していたアタイは、興味本意で麓の街に出掛けてみた。別にアタイは人間の街を滅ぼしたい訳じゃなく、ただ単によく来ていたアタイを倒そうとして来ていた冒険者が来なくなったのと、その冒険者が拠点にしている街がどんな風なのか興味があったからだ。


「さあ、ここが麓の街か。」


 アタイは人化した状態で街に潜入した。まあ、ドラゴンが直接街に来ちゃみんな驚くからな。


「へぇー。これが人間の街か。」


 アタイが街に入ったらすごく賑やかだった。だいぶ栄えている街なのかな?ま、ちょっと歩いてみよう。




 アタイが歩いていると、なにか香ばしい匂いがしてきた。


「なんだろ?」


 アタイがその匂いに釣られて歩いていくと、そこには木の棒で四角く囲った物の下半分に板を張り付けた台の上に鉄の箱を乗せてその上に木の細い棒に肉を突き刺したものを置いてひっくりがえしたりしていた男がいた。


「おい、それはなんだ?」

「お、嬢ちゃん。これは串焼きだよ。一本食うかい?」

「お、いいのかい?」

「まあな、嬢ちゃんは食べたことないみたいだから、一本食べてみて気に入ったら買ってくれると嬉しいな。」


 そう言って男はクシヤキ串焼きなる食べ物を渡してきた。


「串は食べれないからな。あと、熱いから気を付けろよ。」

「ああ、ありがとう。」


 アタイはクシヤキ串焼きを口に入れた。


「!!」


 その時、アタイの脳に衝撃が走った!

 その肉を口に入れた瞬間、口の中に甘しょっぱい、だが深い旨味と香ばしさが合わさった味が広がる。そして、そのまま肉を噛むと肉から肉の旨味が凝縮された汁が広がり、あまじょっぱい味と絡み合い、香りが鼻を抜けなんとも言えない幸福感を満たしてくれる。なんだこれは!ブレスで焼けた肉でもここまでの味を感じなかったぞ!これがクシヤキ串焼きってやつか!!


「旨いなこれ!もっとくれ!!」

「わるいな嬢ちゃん、これでもこいつで店を開いてるんだ。もっと食いたけりゃお代を払っておくれ。」


 そういえば、人間はお金というものを対価に物を交換しているのだったな。


「ちょっと待っとれ、すぐ持ってくる!」


 そう言ってアタイは大急ぎで巣に飛んで帰った。




 巣にあるお金を持って再び街に入った。


「おい、おっちゃん、これで買えるだけアタイにクシヤキ串焼きをくれ!」

「おう、一本銅貨5枚な…………って、おいおいこんなにも要らねえよ。」


 クシヤキのおっちゃんはビックリした。なんじゃろ?アタイはいくつか種類があったお金のうち金色のやつを渡したのだが……、価値が高すぎたみたいだ。


「おおそうか、すまん。じゃあこれで。」


 そう言って、アタイは白金のやつを渡す。


「ぶっ、これじゃあ店ごと買ってもお釣りが出ちまう。嬢ちゃん、貴族の娘か?そいつは隠しておけ気を付けろよ。」

「おおう、すまんな。街に来たのは初めてで、昔から置いてあったこれお金の価値がわからん。」

「お、おう、そうか。まあ説明すると、そのお金白金貨で串焼きが20万本、1日20本食べたとしても20年以上は食べることができるくらいの額だ。絶対に人に見せんじゃねえぞ。すぐ襲われちまう。というか、嬢ちゃんがどれだけ持っているのか怖くなったんだが……。」

「……すまん、世間知らずで。他の種類のお金も後学のために教えてもらいたんだけど……。」

「まあ、嬢ちゃんが串焼きを気に入ってくれたから教えてやるよ。危なっかしいからな。」

「すまん。」

「まずは、この鉄貨、一番価値が低い貨幣だ。で、これが銅貨、鉄貨10枚で銅貨1枚の価値がある。串焼きはこれが5枚分の値段だな。次にこいつが銀貨、銅貨100枚分の価値だ。これで串焼きが20本買えるな。次に金貨、君が最初に出したお金だな。これが銀貨100枚分の価値な。串焼きだと2000本分だ。最後に白金貨。これが金貨100枚分の価値だ。」

「なるほど、それだけの価値のあるお金だったのだな。知らなかった。」

「そうか。で、他のお金は持ってるのか?」

「ああ、あるぞ。ええと……これでどうだ?」


 アタイはそう言って銀貨を5枚渡す。


「だから嬢ちゃん、これだと多いって――。」

「100本頼む。」

「……ああ、持って帰るのか。」

「いや、今食うんだが。」

「……。」

「……。」


 思わず見合うアタイとおっちゃん。


「はぁ、さっき食ってたのがあと100本だぞ。大丈夫か?」

「うむ、問題ないな。」

「じゃあ作ってやる。だが5本ずつ渡すから、食い終わってから支払ってくれ、作って食えないって言われちゃ困るんでな。」

「わかった。じゃあ頼む。」

「おう。」


 そう言ってクシヤキのおっちゃんはクシヤキを焼いていく。そして焼かれた端からアタイが食べる。


「はふはふはふ……。」


 アタイが食べていると、なんだか人だかりができてきた。なんだろう。ま、そんなことよりクシヤキだ!


「おい、親父、俺にも串焼きをくれ。」

「おう、1本銅貨5枚な。」

「こっちもくれ。」

「こっちもだ。」

「ちょっと待て、とりあえずそっちに並んでくれ。それとこの嬢ちゃんが先客だ、嬢ちゃんを優先するからな。」


 ん?クシヤキのおっちゃんが忙しそうにしてるな。まあ、アタイはクシヤキが食えればいいや。




 その日、串焼きの屋台の売り上げは今までで最高になったそうだ。

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