ドラゴン女将の冒険譚〜王都に宿屋、始めます~
中城セイ
序章 ある日の冒険者たち
ある日、うちの宿屋に冒険者パーティーが来た。人間2人、猫獣人、ドワーフ、エルフ、あとあれはインディゴウルフかい。珍しい従魔だね。しかし、男一人に残りが女ってハーレムパーティかい。しかも女が種族バラバラって珍しいねぇ。
「へいらっしゃい。食事かい?それとも泊まりかい?」
「『本読む大熊亭』の店長さんの紹介で来ました。泊まりでお願いします。部屋は三つで。」
「あいよー、そこに宿帳があるから名前書いてちょっと待っといて。」
アタイは料理中だったので、彼らに宿帳に記帳してもらい、アタイは仕上げた料理をお客さんに出した。
「あの熊の紹介で来たんだな。アタイがこの店の女将フィアって言うんだ。よろしく。」
「『ペンタグラム』リーダーのケインです。こっちがメンバーの――――」
「いいよ。宿帳で確認すっから。」
そう言いつつ、アタイはリーダーの目を見た。へぇ……。だったら。
「ほう、なるほどねぇ。……うん気に入った。あんたらならタダで泊めてやるよ。」
「いや、そんなの悪いですよ。」
「いいんだいいんだ。どうせこの宿も道楽でやってるようなもんだからね。構いやしねえさ。この時間に来たんだ昼飯まだだろ。食ってけ食ってけ。」
そう言ってアタイは彼らを食堂へと押していく。
「さあお代はいいから、たんと食べな。」
アタイは彼らを席に案内し、それから厨房に戻り鍋を振るう。うまい飯を作ってやろう。
「いや、さすがにこんなには食べれないんだが。」
冒険者のリーダーがツッコむ。あーやっちゃったか。
「あー、ごめんごめん。つい自分の食べる量を基準に作っちゃうんだよね。ま、食べきれない分はアタイが食べるからさ。気にせず食べちゃって。」
そう言いながらアタイはさらにテーブルの上に料理を乗せていく。作っちゃったから出さないとね。
出された料理を冒険者たちは頑張って食べてくれる。――――美味しそうに食べてくれるけど、やっぱ量が多いみたいで半分以上残った……。ごめんね、作りすぎちゃって。
「いくつか聞いていいですか?」
「ん、なんだい。」
冒険者のリーダーが聞いてきた。
「まず……、何で俺達にこんなに良くしてくれるんですか?」
「そうさね。君が特別な力を持っていそうだけど、心が澄んでいるみたいだから。かな。」
ま、だいたい目を見りゃわかる。
「それって、何かの
「うんにゃ。勘みたいなもんだね。」
リーダーの子は不信な顔をしたけど、追求するつもりはないみたいだね。
「じゃあもう一つ。この店ってちゃんと儲かってます?」
「いやー、赤字ちゃあ赤字なんだけどね。まあ、さっきも言った通り半分道楽でやってるみたいなもんだから、気にしないでいいよ。」
「じゃあ、この店って、フィアさん以外に従業員っています?」
「いや、アタイだけだな。」
おっと、ビックリした顔したね。なんでだろ?
「あー、じゃあ結構防犯対策にお金をかけて――」
「あっはっは。そんなに心配しなくても、うちの店に襲撃して来ようとする馬鹿はいるわけないさ。」
「じゃあ、何で?」
「そりゃあ、アタイがドラゴンだからなっ。」
アタイがそう言うと、冒険者たちは唖然となった。あれっ?
「まさかドラゴンとは思わず、驚いたわ。」
このテーブルにいる冒険者たちはみんな頷く。
「おおっと、アタイのことをドラゴンだと聞いてなかったのかい。あの熊、ちゃんと説明しておけよ。」
後でシメるか。
「フィア様はどうしてこんな所で宿屋やってるにゃ?」
猫獣人の娘がビクビクしながらアタイに聞いてくる。いや、ドラゴンっちゅうても取って食わんよ。
「"様"なんてつけなくていいよ。……そうだね、あれはアタイがまだ山に住んでいた頃、気まぐれで麓の街に行った時。たまたまお祭りをやっていたみたいで、何か香ばしい匂いがするなあと思ったら、そこに屋台が出てたんだ。何かと思って食ってみると、なんかものごっつうまくて、3日ほど毎日行って食ってたんだ。そしたらその三日目が祭りの最終日だったらしく、翌日には店を畳み始めてさ。で、その屋台の親父は、また祭りがある頃に屋台を出すと言ってたから、アタイはしばらく山で過ごしてたんだが、やっぱりその時の味が忘れられないんで、また麓の街へ行って見たんだが、やっぱりまだ祭りじゃなくて、仕方ないから食べ歩きをしたんだ。そしたらこれにはまってしまって、毎日街へ来ては食べ歩いては食べ歩き。まあ今みたいに人の姿をしてたから気づかれることはなかったんだが、ある日モンスタースタンピードが起こって、食べ歩きの街を守りたいという一心でうっかりドラゴンの姿になってスタンピードを解決してしまったんだ。あーこれで怖がられて食べ歩きが出来なくなるなー、と思ってたら、もうすでにアタイのことは《赤髪の大食い食べ歩き少女》として有名だったらしくてな、正体がドラゴンだってバレても逆に大食いが納得されただけだった。
まぁ半分崇められつつ、半分可愛がられるみたいな感じでそのまま過ごしていたんだが、ある日、アタイが街を留守にしてた時に、その街のあった国の軍隊が攻めてきて、アタイが帰ってきた時には街は燃えていた。どうやら国王の命令でアタイの財宝を狙って攻めてきたらしく、アタイは軍を壊滅させた後、その国のお城まで行き一人残らず殺してやったさ。あんなに美味しいものを作ってくれた街の人たちの顔が忘れられなくてね。
また山に引きこもったんだが、やっぱりうまい食事の味は忘れられなくて、再び食べ歩きに出たんだ。あるとき、ふと、どうしてこんなに美味いものが作れるのか思って。で、その日行っていた食堂の女将さんに話を聞いたら料理教えてくれるって言うんでしばらくその店で料理修行して、そしていろんなところで料理の方法を学びつつ過ごしていたある時、たまたまある村の祭り出くわして、そこでせっかくだからと料理を振舞ったら大喜びされてね。その時の子どもたちの笑顔が忘れられなくて。だったら店をやろうと思い、またアタイの店のある街に国が軍を差し向けられないようこの国の城に直接ドラゴンの姿で出向いて『アタイに攻撃をしない限りはこの国を守ってやる代わりに城下町で店を出させてくれ』って直談判して今に至るってわけだ。それから何年だろうな。まあ、毎日ここで鍋を振るってるわけだ。というわけで、ここにいる限り安全だから、うまいもんをいっぱい食べて、ゆっくり休みな。」
そう言えば、色々あったなぁ。
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この部分は『TRPGゲーマーが女神にキャラクターシートを渡され神(GM)になる』の第5章15話後半~17話をフィア目線で再編したものです。ケインたち『ペンタグラム』のことはそちらをお読みください。
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