第4話 王宮広報戦略室長に任命する!

次の日の朝、本当に王宮から使いが来た。


「お姉様……わたしは本当に悲しいです。可愛い妹を無視して、王太子殿下と踊るなんて!昨日の舞踏会は、わたしの社交界デビューだったんですよ!なんて鬼畜な姉でしょう。どうせお姉様は王宮に就職しても、下手こいて断罪&追放されるに決まってますわ!DANZAI!TUIHOU!」


 グレイスは昨日からずっとこの調子だ。この妹には、少しも姉の就職を祝う気持ちはないのか。

 エレノアは朝からグレイスに責め立てられて、すでに疲れていた。


「ちゃんとエドワードには紹介したでしょう?」

「うふふ。今朝、エドワード様からお誘いのお手紙が来ましたのよ。わたし、絶対にエドワード様を捕獲してみせます!」

「へーよかったねー」 


 婚約破棄した女の妹をデートに誘うとは、いったいエドワードも何を考えているのか。

 自分は前世で相当悪いことをしたのかもしれない。こんなに【毒女】&【毒男】に取り囲まれるのは、悪魔にとりつかれているとしか思えない。

 でも、今日から自分は新しい世界へ行ける。想定外の出来事で不安だったけど、期待も膨らんでいた。


「お姉様、お気をつけくださいね。友達から聞きましたけど、王宮には血も涙もない【お局様】がたくさんいらっしゃるらしいわ。お姉様は可愛げがないから、上手く立ち回って……まあ、お姉様には無理ですね♡」


 妹は姉を心配するフリをして、姉がお局様たちに虐められて退職することを望んでいるらしい。

 やれやれ。【鬼畜】なのはどっちなのか。


「……大丈夫よ。わたしは上手くやってみせる」


 

 ◇◇◇



「おお!来てくれたか!」 

 謁見の間に連れて来られたエレノアに、ヘンリー王太子殿下が駆け寄ってきた。 


「本当に嬉しいぞ!そなたのために新しい部署を王宮に作った。名づけて、【王宮広報戦略室】だ!」

「王宮広報戦略室……」

「かっこいい名前だろう?我が王国の広報を担う重要部署になる。そなたはその室長になるのだ。さっそく案内しよう」


 王宮広報戦略室――かなりイカツイ名前だ。その室長にいきなりの大抜擢。ちょっと広報の仕事のお手伝いをするぐらいかと思っていたから、エレノアは少し戸惑った。

 しかも、ヘンリー王太子殿下が直々にただの令嬢を執務室まで案内するのだから、殿下の側近たちは驚いていた。


(かなり期待されているってことだよね……)


 お城のように高い期待かけられていることに今更ながら気づき、胃が少し痛くなった。

 しかし、ここで来たらもう引き返すことはできない。エレノア専用の執務室まで殿下に用意させておいて、今更「やめます」とはとても言えない。

 そんなことを言えば、本当に断罪&追放されるだろう。


「今日からここがそなたの仕事場だ」


 かなり広い部屋だ。たぶん人が10人は寝れるだろう。質素な木のデスクが3つ並んでおり、その奥に豪華な装飾が施されたデスクがあった。


「そなたのデスクは一番奥だ」


 デスクに【エレノア・キャンベル子爵令嬢 王宮広報戦略室長】と書かれた表札があった。


(本当に、わたしが室長なんだ……)


「椅子に座ってみてくれ」


 ヘンリー王太子殿下に促されるまま、椅子に座ると、

「うわ!すごいふかふか!」

「そうだろう?そなたのために特注したのだ」


 牛革の高級な椅子だ。こんな座りやすい椅子は初めてだ。これなら長時間残業しても腰は痛まない。


(こんなすごい部屋で1人で働けるんだ……)


「そなたに部下を3人つける。入ってきてくれ!」


 部屋に3人の令嬢が入ってきた。 


「殿下ぁ!お呼びですかぁ♡」

「とってもステキなお部屋ですね!さすが殿下♡」

「殿下は先見の明がありますわ♡これからは広報が大事ですもの!」


 猫撫で声で、ヘンリー王太子殿下に媚び媚びの3人。

 3人とも、エレノアより10歳は年上だ。

 エレノアの心にサイレンが鳴った。

 こいつらがグレイスの言っていた【血も涙もないお局様】かもしれない。


「エレノアさんは王宮で働くのは初めてだから、いろいろ教えてあげてくれ」

「はーい♡」

 3人は声を合わせて言った。


「仕事の資料を引き出しに入れておいた。あとは頼んだぞ。何かあれば知らせてくれ」

 ヘンリー王太子殿下は部屋を後にした。 


(行かないで!殿下!) 


 部屋のドアが閉まると、


「あなたが室長なの?ずいぶんとお若い室長だこと!殿下も何をお考えなのかしら?ここの仕事はわたくしたちに任せておきなさい。あなたは何もしなくていいから!」

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