第4話 異変
『え~、気付かれた方も多いと思いますが、"ロアが今ちょっといません"。先ほど急に動かなくなりまして、現在裏で様子を見てもらっています』
は?
さっきまであんなに会話してたのに?
"最後のアレ"はどうなったんだよ!?
その後番組は止まる事無く、100万給付の事や新経済対策、東京内建造物の急な赤い光、終盤には"ロアの最後に言おうとしていた事"の考察が数分だけされた。
♢
『今までの経済対策からの推測と、少ないデータではありますが、最近の総理の動向を見て組み合わせてみると、"今までにない新しい方法がある"と考えました。それは...』
♢
「L.S.を使った新事業を売り出すんじゃないか?」「外交を増やして国々の物を組み合わせた限定品とか?」「宇宙事業を新たに進めるんじゃないか?」と様々な意見。
しかしその反動で、「一気に税金を上げるんじゃないか?」「公共料金を上げるんじゃないか?」「L.S.の使用料を毎月取るんじゃないか?」といった意見も。
だが、俺が本当に気になったのはそれらではなかった。
ほんの少数だがSNSでこう言ってる人たちがいた。
― 人間を殺してその分を取り上げるんじゃないか?
なんでかは俺にも分からない。
なぜかこの言葉だけがずっと脳裏に残った。
この違和感はなんなんだ?
100万給付の財源...
「ねぇ、ルイ」
考えていると、不意にユキが話しかけてきた。
「総理の会見って夜にもするって言ってたよね」
「ん...言ってたな」
「"会える人は会いましょう"って言ってたけど、"次は強制的に見せるとかじゃない"ってことかな?」
「かもな。また夜に見てみるしかない、ってか、この100万どうするよ?」
「う~ん...私は一旦貯金かなぁ。ルイは?」
突然の100万に対しても、ユキは案外冷静な様子だった。
昔っからの冷静さは、ここでも変わらずか。
ちなみに「俺も」と言っておいた。
特に欲しいものつっても、そんな今はないし。
「さて、そろそろ出ますか」
「うん」
俺たちが出ると同時に、一気に人が入っていった。
もう昼が近いからか、人気だったりするからか。
それか"あの席の良さ"がまさかバレてれるんじゃないだろうな?
会計は出る時に自動でL.S.から支払われるため、特に接客とかは無い。
何年か前から"自動会計の無人店舗"が広がっていったが、こんな施設内まで今や無人みたいなもんだ。
奥に管理人一人くらいはいるんだろうけど。
「えっと、10Fでやってるんだよね? "それ"」
俺の"新仕様になったL.S."を指してユキは言う。
厳密には"UnRule"の事だと思う。
そんなこんなでユキに連れられた俺は、エスカレーターで"例の10F"に向かう。
またあの場所に行くってわけだ。
ってか、マジで一気に人増えたな。
絶対さっきの100万の影響だろ。
10Fのゲームコーナーへと向かう途中、
「わりぃユキ。こっからはちょっと一人でもいいか?」
「? いいけど、どこか行くの?」
「どうしても確認したい事があって、もらったら屋上に来てくれよ」
「屋上? 分かったわ」
俺はすぐに屋上へと向かった。
実はさっきから、配信やSNSで"謎の赤ビル建設"が話題になってる。
AIだけで作ってるらしく、とてつもない速さで出来ていってるらしい。
上の方からだと様子が見えるらしいから、ここからなら見えるんじゃないか?
せっかくだし、ちょっと見れるうちに見てみたい。
屋上へ行くと、何人かが先にその様子を見ていた。
「あれなに?」という声が聞こえてくる。
秋葉原駅の近くに確かに"大きな赤い何か"が今出来ようとしている。
人は一人もおらず、何台もの機械だけが正確に動いていた。
秋葉だけじゃない、渋谷にも出来てるっていうし、これはなんだ?
さらに上をよく見てみると、"赤いドローン"も数台飛んでいるのが見える。
"何をする場所"になるんだろう。
♢
L.S.で色々と確認をしていると、ユキが来るのが横目に見えた。
屋上は風が結構あり、ユキの履いてるミニスカートが一瞬捲れ上がった。
"ピンクのアレ"は見えてない事にしとこう。
「...変態」
「いや見てねえって」
「嘘、絶対見た」
「もう何でもいいわ、んな事よりアイツを見てみ」
「?」
ユキは赤ビルを見て少し驚く。
俺たちはハンモックのある場所に座り、"アレ"を眺めた。
「何ができるんだろうね、"アレ"」
「さぁな、昨日まで無かったし」
「さっきはやっぱり見た?」
「何を?」
「"ピンク"」
「"ピンク"ってなんだ」
「引っかからないかぁ」
「どうだっていいだろ、んなこと」
「よくないし、ルイの変態」
「意味分からん」
...あれ?
ユキをチラ見すると、右腕には"水色のL.S."があった。
「なぁ"それ"、どうしたんだ?」
「あ~これね。さっき"UnRuleの事前予約当選者"ってのに当たっちゃったみたい」
「は? ユキも?」
「うん」
...マジ?
予約の数ってヤバかったはず。
100万人くらいって、告知で見た気がする。
その中の100人中2人がここにいんのかよ。
にしても、"水色"って俺のとはまた違うらしい。
形もまた違うし、"全部バラバラ"だったりするのか?
疑問が残る中、俺たちはもう数分だけ"アレ"を眺めてから秋葉原駅へと向かう事にした。
経済対策の影響で利用者が多いのか、タクシーは全く捕まえられなかった。
「あ~、タクシー乗り場にも全然いないかぁ」
「こんな時だけ使いまくりがって」
「ね~、電車乗るしかないね」
駅前にも確かに人は多かったが、意外にも予想の範囲内だった。
俺たちは仕方なく駅構内へと入る。
改札は今は何かを媒介して通る必要は無く、次の改札を通る時にL.S.が自動で支払ってくれる。
最近電車は乗ってないけど、電車内も凄い進化してるって聞いたな。
無人電車による自動運転だけでなく、なんと全部"3階建て"だってさ。
3階ってなんだよ、3階って。
AIによる案内も充実していた。
駅員のような恰好をした人型アンドロイドや、マスコットキャラがまるで人のように老人たちを案内している。
今までの駅員の仕事をあれらが代替してるって感じなのかな。
ところどころで、"L.S.のでっかい版のようなホログラム掲示板等"まであり、もう俺が知っている駅じゃ無い。
何一つ表情を変えないユキの様子を見るに、ユキは知ってたってことか?
まさか知らないの俺だけじゃないよな!?
こんなに凄いんだな、今の駅って...
俺の家は渋谷の神山町。
高級住宅街なんて言われている場所だが、最近は別にそんな大した家ばかりじゃない。
近くにユキの家があるが、俺の家より全然大きいぞ。
そこに向かうには、山手線の外回り(東京・品川方面)の方が少し早く行ける。
人の流れに沿って、ホームに行こうとしたその時、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
!?
後ろの方で男の大きな悲鳴が聞こえ、それと重なるように人々が大声を上げて走って離れていく。
駅員アンドロイドたちがすぐ気付いたのか、警報を鳴らしだし、横を走りだした。
構内の壁のタッチパネルや、ホログラム掲示板が真っ赤に変色し、
【〈〈緊急事態〉〉走ったりせず慌てずに対処をお願いします】
と出始めた。
駅構内は瞬く間に真っ赤へと染まった。
「...ユキ、先行ってろ」
「いや、私も行く」
「いいのか、ヤバいヤツがいるかもだぞ」
「大丈夫、危なかったら一緒に逃げよ」
「...しゃあねぇ」
ただの好奇心だった。
こんな事は今は滅多に起こらないから。
"ヤバけりゃ逃げればいい"
それだけを考え、"問題の後ろの場所"へと行く。
それは人をかき分けたほんの数メートル先。
そこには...
「...え...」
真っ赤に染まった床。
取り押さえようとする駅員を次々と破壊する"アレ"。
俺の脳内で危険信号が発した。
今すぐ逃げろって。
逃げろって。
「...なんだよ..."コレ"」
脳内は言う。
― 早 ク 逃 ゲ ロ
早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ
早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ
早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ
早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ
早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ
早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ
早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ
早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ 早 ク 逃 ゲ ロ
― 機械が人間を...食べている姿があった
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