第3話 発令
展開されたのは俺だけじゃなかった。
目の前のユキ、他の全員。
辺りが「え!? なに!?」と騒ぎ始める。
L.S.のホログラム画面には、朝番組の"有名なニュース番組"が勝手に映し出されていた。
店内テーブルに埋め込まれているタッチパネル画面にも同様の画面が出ている。
時間を見ると"AM 10:33"だ。
『速報です。AI総理大臣"R.E.D."は新たな経済対策を発表しました。この後すぐ会見が行われるそうです』
番組内ではいつものメインキャスターを始め、日替わりで出る何人かのメンバー、狼型アンドロイド"ロア"が場繋ぎの議論をしだした。
この番組は平日毎日10時~12時でやってるヤツであり、俺もちょくちょく見る事がある。
「こんな事って初めてね。経済対策で速報までして"大袈裟に発表する意味"ってなんだろ?」
「ん~...AIの初政策をよっぽどアピールしたいか、それか国民全員に給付する何かとかか?」
当てずっぽうだ。
こんなの誰も分かる訳がない。
俺たちはとりあえず適当に見続けた。
『いや~突然ではありますけども、どんな経済対策を発表されるんでしょうね~柊木さん!』
『ちょっと予想出来ない感じしますね。私たちが今は当たり前に付けているL.S.でさえ"突然無料配布"されましたしね』
『私今年60になりますけどねぇ、これ無いと生活できないですよ! 行政関連はこれ1つで完結してますし、お金の出金や送金、さらには最近VRとかARとかより凄い何かあったりするんでしょ? ついていけないなぁ~』
『大丈夫です。AIの僕らはどんな人でもずっとサポートしていきますので、このL.S.をきっかけに慣れていって下さればと思います。AIの僕でさえ情報や技術が日進月歩すぎて困るほどです』
メインキャスター槇野アナ、若手女性起業家で人気の柊木社長、芸能人大御所の倉木さん、ロアの順に話が続いたところでロアはもう一言放った。
『ところで僕は今回のこの経済対策、今までに無いほどの規模になると予想します。500兆以上は行くでしょうか? それほどの支援が全体へ行われるんじゃないでしょうか?』
『えぇ!? 500兆!? そんな規模ですか!?』
"ロアの発言"に槇野アナを始め、一同が驚いている。
興味無くて適当に演技して驚いてるヤツもいそうだが。
ってか500兆なんてお金"どこから出る"と予想してる?
総理が日本銀行に札刷りまくるように命令してハイパーインフレでも起こすつもりか?
絶対に"日本の国債"を突っ込まれて終わりだろ?
そう思った瞬間、俺の興味もかなり薄れていく気がした。
『いやいくら何でもそれはあり得ないでしょう~。日本の国債の発行残高はもう1500兆円を超えてるんでしょ? そこまで賄える財政なんてないんじゃない?』
『僕は今までの経済対策からの推測と、少ないデータではありますが最近の総理の動きを見て組み合わせてみると、"今までにない新しい方法がある"と考えました。それは...』
それは...なんだ?
謎に引き付けられる言葉。
興味が戻って来てしまった。
別に見るつもりもないのに妙に見てしまって最後の最後で気になる、みたいな言い方しやがって。
なんだよ...それは...それは...!?
『皆様、突然ですが失礼します』
画面は突如として、AI総理大臣"R.E.D"の記者会見の様子へと切り替わってしまった。
それによってざわつく周り。
「え~」という言葉も少し聞こえた。
さっきより店内人増えたか?
もちろん俺も気にはなるが、気持ちを抑えて見続ける事にした。
『この度発表する経済対策は"皆様に大きく影響のある"ため、強制的にL.S.を使わせてもらいました』
俺たちに"大きく影響"?
一体なんだろうか?
そもそもL.S.に"こんな強制機能"がある事すら知らなかった。
いや、誰も知らなかったんじゃないか?
緊急性の高い時に使えるとかだろうか。
『今や日本の借金は膨れ上がっており、1600兆を満たそうとしております。この1600兆円ですが、"返せる可能性"が今回の政策にはあります』
...は?
借金が返せる?
総理がそう言った後、急に都庁やスカイツリー、国会議事堂のライブ映像が流れ、外観が赤く光り出す様子が映された。
『この"赤い発令"を開始のシンボルとし、たった今から手始めに皆様には100万円を給付致します』
!?
L.S.の一番右の画面を見ると"入金履歴"が表示され、そこには...
新しく追加された"1,000,000"の項目。
『これからもっと日本全体を支援していく予定です』
いきなりの100万の嬉しさで周りがうるさい中、総理は、
―奇妙な言葉を残していった
『また夜中に会見を開きます。"お会いできる方"はお会いしましょう』
まるで何事も無かったかのようにニュース番組へと戻る画面。
...ん?
あれ、ロアは?
―肝心のロアの姿がそこには無かった
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