第135話

 潤ちゃんの背中をしっかり抱きしめようとしたけど、両手を押さえつけられて手が回せない。


「潤ちゃん‥‥ちょっと手が痛い」


 確かそう呟いた気がした。相変わらず一体感を伴って繰り返される振動。ギシギシとした音。でも手は自由にならない。なんでだろう、と私はゆっくりと目を開ける。



 その瞬間、全身に戦慄が走った。事態が把握できず頭が混乱する。幸せの絶頂とも言える快楽が一気に消え失せた。



「おっ!目を覚ましたみたいだぜ」


 横の方から声がする。仄かな照明の中に見知らぬ顔が見えた。


「イヤッ!なにっ!」


 もがこうとして力を入れても私の手は押さえつけられていて全く動かない。もう片方も別の男が押さえている。そして、前方にはひたすら腰を振り続ける男。もう一度逃れようと力を入れた時だった。前の男が大きなうめき声をあげた。



「えっ!ダメ!ダメ!イヤ~~ッ!」


 出せるだけの声で叫んだ。直後、私の身体は何かが押し寄せるのを感じ取った。絶望へと突き落とす温度だった。


 叫び声が泣き声に替わる。止めどもなく涙が流れた。顔はくしゃくしゃに歪んだ。


「次はお前だ」


 身体が軽くなった途端、またすぐに重みと異物を感じる。それからまた小刻みな振動。私はもう抵抗する力も出なかった。全身から力が抜け、まるで死人のように寝てるだけ。


 間抜けな声が車内に響き、三人目が私の上に来た時、外から女の声が聞こえた。


 耳に覚えのある声だった。なんて言ったのかはわからない。もうそれが誰で何を言ったのかも良かった。そのあと、ガガンというと響きと共に車の音が聞こえた。


 三人目が呻いて腰の動きを止めると、すぐに後ろのドアが開けられ私は車から引きずり下ろされた。砂利の痛みで顔を歪ませる。それから砂利をまき散らすようにして車は猛スピードで走り去った。


 直後、周囲は真っ暗闇に包まれた。


 突っ伏してどれくらい泣いていただろうか。砂にまみれた手で涙を拭い、周囲に目を向ける。ほとんど真っ暗で鼓膜でも破れたように音も聞こえない。


 残った力を振り絞り身体を起き上がらせる。それから砂ぼこりを払いながら立ち上がった。スカートが力なく下がる。ショーツは無かったものの、上着もスカートもあったのがせめてもの救いだろうか。


 ずり上がったブラを直して一歩足を出す。途端に痛みで身体がよろける。そこで靴が無いことに気付く。


 確かそれらしい音が聞こえたようだと目を凝らすと白いものが二つ見えた。白のスニーカーにして良かったとそれを手に取る。


 しばらくすると目が明るさに慣れてきた。僅かだが月明かりが周囲を浮かび上がらせている。


 木々が揺れるような音がする。


 それ以外は何も聞こえない。

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