第130話
「掛かって‥‥来なかった。さっきはごめんね」
《別にそんなこと――。先輩から掛けてみたらどうです?》
出張でそれが出来ないから困ってると梨絵に伝える。
《特に用事があったわけじゃないんですけど、なんだか今夜、先輩の声がどうしても聴きたくなっちゃって――》
「もう!そういうのは私じゃなくて彼氏とかにいう台詞でしょ」
呆れたように宥めると梨絵が笑う。私も笑った。梨絵からの電話はイライラしていた私の心を静める鎮痛剤の効果があったようだ。ホント頼れる妹分だ。
「勉強なんて固いこと言わないから教習所の方は頑張ってね」
《私が免許取ってもし車買ったら先輩横に乗ってくれますか?》
「梨絵ちゃんの横か~。なんだか怖いけど、必ず乗る」
《約束ですよ》
三十分くらい話して受話器を置く。楽しかったひと時の余韻も静まり返った部屋にたちまち吸い込まれて私は一つ吐息を漏らす。それは小さな決意表明でもあった。
「こうなったら明日、仕事が終わったら乗り込んでやる」
独り言をつぶやいた後で、私はお風呂に入りながら明日の戦略を練る。物怖じすることはない。聡子さんだって女だ。きっと潤ちゃんも力を貸してくれる。私の気持ちの強さを見せつけてやるんだ。
『レ―ヴ』に着いた時間はわからない。視線を上にあげる。潤ちゃんの部屋の灯りが点いている。帰ってる、と息を弾ませ駐車スペースに目を向けると見慣れない小さい車が止まっている。
これがミニクーパー。だとしたら聡子さんの車かもしれないと気持ちが焦る。自転車を止め慌てて外階段を上ろうとすると、ガシャンと自転車の倒れる音がした。ちゃんとスタンドを止めてなかったのかもしれない。そんなことはお構いなしと一気に駆け上がり、ドアノブを回す。ノックすることすら忘れていた。
鍵は掛かってなく扉は簡単に開いた。玄関の沓脱には女性ものの履物があった。聡子さんだと思った時、奥から喘ぎ声が聞こえた。遅かったと私は慌てて奥の六畳間に飛び込んだ。
その瞬間、私は目と口を大きく開く。
瞳に真っ先に映ったのは聡子さんの背中。そして小刻みに上下する肉付きの良さそうなお尻。その下には潤ちゃんが居て、その表情から限界であることがわかった。私が声を出す前に二人が大きな声を出して身体を震わせる。聡子さんのお尻がブルブルと痙攣した。
私は間に合わなかったと膝から崩れ落ちた。その直後、勝ち誇ったように聡子さんがボブを揺らすように振り向いた。
「残念だったわね。いま戴いたから」
私は泣きながら大声で叫んだ。
「どうして~~っ!」
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