第115話

 潤ちゃん‥‥‥。



 心の中で呟いた途端、私は徐々に冷静になっていく気がした。


 スカイラインから一台ほど開けたスペースにバックで駐車すると、すぐに運転席のドアが開く。潤ちゃんが驚いた表情で二人を見つめる。


「由佳理!」と突然ビクッとするような声が聞こえ、私と男性が顔を向ける。


「どうした?っていうか何してるんだ?」


 潤ちゃんの声に男性が片膝を着いたまま眉根を寄せる。


「何してるって見ればわかるでしょ!求愛ですよ。あっ!ひょっとしてお兄さんですか?」



「俺は由佳理の‥‥恋人だけど」


 しっかりした口調で潤ちゃんは男性を睨みつける。それから突然、オヤッという顔を浮かべた。その視線に何かを感じ取った男性は急に立ち上がると舌打ちをして、

「恋人がいるなんて話、聞かされてなかったな」と吐き捨てるように言った。


 既に表情からはあの優しさは消えていた。それからドアを開けてバラを助手席に放り込む。


「さっきのは忘れてくれ。悪い冗談だからさ」


 言い終えるなり車に乗って急発進して行く。それを呆然と私と潤ちゃんは見ていた。


「なんなんだよあいつ?」


 潤ちゃんの声に私はただわからないと首を振る。後ろを振り返ると茜さんのホッとした顔が見えた。


「昨日の電話がちょっと気になったというか‥‥。それで『花梨』にでも行く前にって寄ってみたんだけど、まさかの光景が広がってたから正直驚いたよ」


 私を見た後で潤ちゃんは車が走り去った方向を眺めた。


「ちょうど良かったのかな‥‥それとも悪かったのか」

「バカ言わないで!良かったに決まってるじゃない」


 それを裏付けたのは茜さんの一言だった。


「ナイスタイミングだったね。彼!」


 さらにはピットの横沢さんも大きく手で丸とアピールしている。なんだか気恥ずかしい。仕事中であることを気遣い潤ちゃんとは僅かな会話だけだった。店内に戻りかけると茜さんが後で話があると耳打ちした。それから閉店までは再び慌ただしく動き回った。



 その日の夜、着替えをしていると茜さんがツナギを脱ぎながら口を開いた。


「しっかし、こっちが恥ずかしくなるくらい大袈裟だったね」


 呆れたような口調だった。スルッとツナギが下に落ちる。今日も緑色の下着だ。


「もう、どうしようかって思っちゃいましたよ。そう言えば茜さん話があるって?」



 私の声を聞きながら茜さんは手慣れた手つきでブラを外す。私は驚いてその形の良いバストを見つめた。その視線に茜さんは慌てて苦笑を漏らした。


「お風呂入るんじゃなかったね。うっかりしちゃった。でも奇麗なもんでしょ?あんまり吸わせてないから」


 ハイとも言えず黙っていると、



「由佳理‥‥あれ受け取ってたら大変なことになってたかもよ」とキリッとした目で私を見つめた。

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