第110話
「それでこちらが桑子さん。普段は茜さんって呼んでるんだけど、私の頼れる先輩!」
紗枝ちゃんは杉山さんと同様に挨拶した。
「桑子です。よろしくね。そうそう、由佳…あ、川島さん。そんなところで話しててもお客さんの迷惑になるから、お店の中でも案内してあげたら?ね?店長?」
茜さんに振られた杉山さんは、二回ほど頷いて掌を差し出した。
「せっかく遠くから来てくれたんだからそうしてあげなさい。どうせ平日で暇だろうし、忙しくなったら頼れる先輩もいるから」と今度は茜さんに目を向ける。それを見て茜さんは不敵な笑みを浮かべた。
二人の好意に甘えて私と紗枝ちゃんは駐車場へと出た。もちろん車を見るためだ。
「あれがそう。赤のセルボ!」
可愛らしい車がチョコンと駐車場に止まっていた。それから近くに行ってあれこれ話しながら車を見せてもらった。車はピカピカに輝いている。
「新車なの!?」
私が訊くと紗枝ちゃんは頷いて、毎月ローンを払っているのだと言った。二人の話し声はピットにまで届くようで、作業がまだ入ってない元木さんと横沢さんは微笑ましくこちらを見ている。
「免許取ったなんて話は聞いたけど、車買ったなんて一言も言わなかったじゃない」
「電話の時はまだ買ってなかったのよ。それで電話しようかなって思ったんだけど、どうせならビックリさせちゃおうって―――」
数日前に潤ちゃんをビックリさせた私がこんな形で驚かされるとは思っても見なかった。
「道とか大丈夫だったの?」
「国道走ってた時は良かったんだけどね。やっぱり知らない道は難しいね」
紗枝ちゃんは照れくさそうに笑った。
「お店の名前は電話で聞いてたから、何回か人に訊いたりして、やっとたどり着いたって感じ。さすがにちょっと疲れちゃったけど――」
助手席には地図が置かれている。ここまで来るのにきっと何回も見たはずだ。そう考えると私は嬉しくて仕方が無かった。
「あ、そうそう――」
そこまで話してふと思い出したように紗枝ちゃんはドアを開けて小さい封筒を取り出した。
「これ、海で撮った写真。梨絵ちゃんの分も入ってるから」
確か記念に一枚撮ろうと近くの人に頼んで写してもらったものだ。使い捨てカメラで撮影された写真の中にはピースサインをして笑顔を弾けさせている四人がいる。
「うわ~っ!良い写真」と私は夏のひと時をしばし振り返っていた。
「ありがとう。じゃ~、今度はお店の中見てって!」
私は紗枝ちゃんと店内を歩きながら、いろんな話に花を咲かせる。
「そういえば紗枝ちゃん。彼とはうまく行ってる?」
コクッと紗枝ちゃんは頷き笑みを浮かべる。幸せそうな顔だ。
「最近、家とかにも来たりして両親とかにも会ってるのよ」
「うわ~っ、もう公認の仲なんじゃない!」
言いながら、私のところはまだだと潤ちゃんを思い浮かべた。いずれお母さんにも紹介したい。
いつになるのだろう‥‥。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます