第97話
家を出るのは八時五十分くらい。朝晩めっきり涼しくなったので、スカートをやめて少し厚手のパンツルックを穿くことにした。上は会社で支給されたジャンバー。
そして十月一日なので仕事場のツナギも衣替え。やや厚手の長袖となる。日中などは気温も上がるし、特に土日などは忙しいので袖まくりをして調整する。
開店十五分前になってから、商品の確認を兼ねて茜さんと店内を見て歩いた。
「冬商戦本番になるとレジ打ちも忙しくなるから、くれぐれも打ちミスのないようにね。これは冬だけじゃなくて年間を通して何度もあるんだけど――。あたしも最初よくやったのよ。ポンポンポンって調子よく叩いてると一桁違ったりとか」
茜さんは指を動かしながら苦笑する。ハンドルが置かれた場所に来ると茜さんはその手触りを確かめるようにそっと掌で触れている。
「ハンドルって最初から車に付いてるのに何で交換したりするんですか?」
「そうね~。やっぱり握った感触とか、大きさなんかもあるかしらね。車に付いてるのって大きいのが多いでしょ。小さくすることで車の反応が良くなるのよ。その反面、重くなるんだけどね」
そう言えば、茜さんの車も替えてあるのか見た感じ小さい。
「メーカーもいろいろあって、モモとかナルディ、ボランテなんかも人気があるわね。ボランテっていうのはイタルボランテのことだけど、私はやっぱりモモかな~」
「なんだか果物の桃みたいで面白いですね」
「そうね。由佳理のここと一緒!」
茜さんは笑いながら私のお尻をポンと叩く。
「もぉ、茜さん、おじさんみたいなんだから」
私も笑った。
それから私達はカーステレオの場所へと歩く。開店前なのでまだ音楽は流れていないが、直に軽快な音楽がここから響くはず。展示された中に見覚えのあるものがあった。それを見て私は八神さんとのドライブを思い出す。
「カーステはうちの店でも人気の高い商品だから、お客さんにもし何か訊かれたら担当の山モッチに話せば。山モッチは音にはうるさいからね。今だとこの『ロンサム・カーボーイ』が筆頭って感じかな。あとは『シティ・コネクション』ってところ。やっぱり車でのデートには良い音楽がつきものだからね。皆こぞって良いのを付けたがる。中にはコンポを入れたいからって車を選ぶなんて人もいるって聞いたことがあるよ」
なるほどと表示されている価格に目を向ける。前にも何度か見たことがあるけど、セットで買えば私の給料じゃとても払いきれない。
「茜さんはコンポとか付けないんですか?」
「あたしは車で音楽はほとんど聴かないから。ロータリーサウンドがあればそれだけで良いの」
そう言えば、茜さんの車でご飯食べに行っても音楽を耳にしたことはない。人それぞれで興味の対象が違うのだろう。
「よ~し!開店五分前!景気づけに一発鳴らそうかね。由佳理は自動ドアの準備に行って」
足早に出入り口に向かうと、後方で音楽が鳴り始めた。
今日も一日頑張ろう。
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