第87話
「それで今はどうなの?」
《どう‥‥って。もう言わせないでよ~》
声のトーンだけでも十分だと私は顔を緩ませた。
《それより由佳理ちゃんの方はどう?》
紗枝ちゃんに訊かれて私は最近起こったことを順番に話して聞かせた。
《え~っ!三年も前からって凄いじゃない!いや~なんかドラマみたい。もしかしたらそのままゴールインってこともあるんじゃない?》
「どうかな~」と惚けてはみたものの、私も予感めいたものは感じ始めている。このままうまく行けばきっと‥‥‥。そう思った時、不意に聡子さんの顔が浮かぶ。彼女はちょっとしたハードルにも思える。次は必ず掛けるからと紗枝ちゃんとの通話を終えた。
―――《‥‥もしもし》
「‥‥私」
約束通り木曜の九時ちょうどに電話は掛かって来た。八神さんだ。
《もしかして、電話の前で待ってた?》
「ええ。帰ってからずっと。ご飯も食べないで―――」
冗談だと気付いたのだろう。八神さんの楽しそうな笑い声が聞こえる。
《そうそう、確か次の日曜は休みになるなんて言ってたけど、何か予定とか入っちゃってるかな?》
「あ、日曜はちょっと‥‥なぁ~んて、ちゃんと空けてありますよ」
優しい声で怒った後、八神さんは日曜の予定を聞かせてくれた。もしかしたら初デートってことになるんだろうなと電話を切ってもしばらくウキウキしっぱなしだった。
金曜は私が電話をして、土曜日は八神さんが掛けてくれることになっている。
「さすがに日曜休みの前は気分がって言いたいけど、なんだかそれだけじゃないって感じね」
土曜の夜に更衣室で着替えていると茜さんが意味深な顔で私を見ている。
「別に特には何もないですよ」
「そう?じゃ、今夜ドライブ行こうか?朝まで走り続けてあげる。一晩くらい寝なくたってあたしは全然平気だから―――」
どう?と言わんばかりに頭を斜めにして笑顔を見せる。それを見て私は日曜の予定を白状する。
「じゃ、頑張ってきなよ!」
茜さんはそう言うなり私のお尻を一つ叩いて帰って行った。羨ましさも込められているのか、ちょっと下着の上からの一発は痛かった。
―――「あら?休みにはゆっくり寝てるって人が珍しいわね」
口紅を塗り終え、口をムミムミしていると後ろからお母さんの声がした。私は振り返りもせずに鏡の中に映るお母さんを見つめる。お母さんもまた何か言いたそうな顔で鏡を見ている。それからクスッと一つ笑って引き戸を閉めた。
お母さんも女。きっと察しているはず。お母さんにもいずれ話すから、もう少しだけ待ってて。
あと数日で十月とあって、このところ急に寒暖差が大きくなったような気がする。朝の天気予報では日中は半袖でも過ごせると言っていたが、今の時間だと半袖は寒いからと長袖のブラウスにカーディガンを羽織ることにした。
下は薄手の黒のストッキングに同色のタイトスカートを履く。
一応デートと言うことで下着はクリームに近いイエローのブラとショーツを選んだ。
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