第74話
三時を過ぎると小腹が空いたせいかA組からの焼きそばの匂いが鼻を刺激する。ちょっと手が空いたこともあって私も他のクラスを見物することにした。
「由佳理も遊んでって~」
A組の子から早速声が掛かる。金魚すくいは面白そうだ。時折聞こえるパンという音もお祭りの雰囲気を盛り上げている。何より皆浴衣なのが良い。男子はこういうのに弱い。
ただで良いと手渡されたポイで私も挑戦する。こうして見るとオモチャの金魚でも雰囲気は良く、あたかも泳いでいるようにグルグルと回り続けている。しかし、水流が強いのか狙いを付けて待っているとポイを突き破っていく。
「こんなの掬える人がいるの?」
私がボヤくと、まだ誰もと担当の子が笑う。
適当に眺めた後は問題のB組。足を踏み入れた途端、その色とりどりの下着に目を奪われる。単品であったり、ブラとお揃いで展示してあったりと、まるでそこは女性の下着売り場のようだ。さすがに大きくて白いショーツは無かった。
数人が手を振ったのでそそくさと私は歩み寄った。
「B組も派手なことしたわね。それでとりあえずはみんなおニューなの?」
「それがね。買うと穿いちゃうでしょ。だから表向きは新品ってことにしてあるんだけど半分以上は着けたやつなの」
内緒話のような声を聞きつけ周りの数人が苦笑を浮かべる。つい染みは大丈夫なのかと訊きそうになったが、それは止めておいた。
「そうそう、あのセクシーなのは誰の?」
私は友子が話していた紐の下着を指さした。黒で下の部分はレースになっている。完全に大人の下着だ。
「これは誰のっていうのは秘密。一応それが今回のルールなんで」
分かったわと言って私はカフェに戻った。
「どうも~」と声がしたのは頭の中から派手な下着が消えかけた頃だった。安藤君が照れ臭そうにこちらを見ている。私は驚いたように簡易的なキッチンスペースから出て、安藤君を出迎えた。
「どうしたの?今日は?」
「どうしたって言うか‥‥学園祭って案内を見たからさ。ちょっと寄ってみようかなって」
茶髪のモヒカンに柄のシャツと他の三人はやや引き気味だったが、京子の態度は徐々に変わった。
「あれ?ひょっとして安藤君?」
「あっ!石川か。お前もここだったのか」
「やだ~もう、雰囲気変わっちゃったからわかんなかった」
こちらも久しぶりの再会のようだ。社会に出るようになって、だいぶ安藤君も変わったのだろう。
「もう乗ってるんでしょ?トラック」
「ああ、2トンだけどさ。自動車と違うんでちょっとぶつけちゃったよ」
私の問いかけに安藤君は照れ臭そうに笑った。
「ここはじゃ~京子にお願いしましょ」
美幸がそう言って安藤君の席まで京子を連れて行く。カフェというよりもこうなるとキャバレーのようにも思えるが私も同感だった。
安藤君とはいい関係にはならないと薄々感じていたからだ。京子もいろいろ話したいことでもあるのか、テーブルの上は会話が飛び交っていた。
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