第73話

 取材した子はお店の紹介だけではなく、カフェの紹介も抜かりはない。半ば呼び込みのようにも見えるが、次第にカフェも混んでいく。


 交替でお昼を済ませて一時間くらいした時だった。教習所と養豚場が同時に浮かぶ顔が現れる。


 小池君だ。


「いらっしゃい」と言い終わるか終わらないかのうちに私の視線は小池君の後ろに注がれる。見覚えのある三人組だ。こともあろうに今日はご自慢のセーラー服姿。聖女ここにありって感じで、なんだか聖子カットさえも嫌味にも取れる。


 気取ったような歩調の三人は小池君と共に奥のテーブルへと向かう。京子が注文を訊きに行った。


「オーダーいただきました。アイスコーヒー、オレンジジュース、ジンジャーエール、レモンスカッシュです」


 せめて女の子くらいは同じ飲み物で揃えて欲しいと私の隣で美幸が手を動かしながらぼやく。それに応えるように私は顎をチョンチョンと振った。運ばれた飲み物が半分くらいになったのを見計らって、私は奥のテーブルへと歩いた。


「今日もお揃いなんですね」と『花梨』で見せるような笑顔を向ける。

「ま~せっかくだから見に行こうって」


 小池君はそう言って他の三人に同意を求めた。聖女の三人も合わせたように頷く。呼吸だけは合ってるようだ。


「このアイスコーヒー、なかなか美味いよ」


 小池君はそう言って私を見る。挽いた豆の香りはスーパーのパックも一味替えてくれるようだと私は笑いを堪える。


「レモンスカッシュも美味しいわよ。こんなところだからパックのジュースかと思ってたけど、意外と本格的」


 確か美枝って子だと思う。胸がぺちゃんこなので覚えている。


 人の気配がしたので新しいお客さんが来たのかと思ったら、何度目かの交換を終えた友子だった。言ってみれば友子も来客中だが。



「あれ?美枝じゃない!」

「あ~、友子!」



 中学の時同じクラスだったと説明しながら友子は近くに歩み寄った。


「なんだ、わざわざ来てくれたんだ。こんなサクジョみたいなバカ高に」


 友子の言葉に三人の表情が一瞬険しくなる。確かさっきトイレに向かう時も機嫌が悪かったと、私は友子の後姿を見つめていた。


「バカ高なんて言ったら、私達だってね~」


 それを聞いて美幸が眉間に皺を寄せる。おそらく友子も一緒だろうと思った。


「せっかく来てくれたんだからゆっくり見て行って!そうそう、隣のB組には面白いのが展示してあるから絶対寄って行って。ま~美枝に合うようなサイズが置いてあるかはわからないけど」


 胸元への視線で友子が何を言わんとしたのか察したのだろう。三人はジュースを残したまま小池君を連れ出すようにして教室から出て行った。


「中学んときからちょっと生意気だったのよね~あの子」



 嫌な客でも追い払ったかのように友子は呟く。


 そうここはサクジョの縄張りなのだ。

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