第71話

 お店の外観とお勧めメニューの写真や、店主へのインタビューなどが、三人一組となった取材班からぞくぞくと提出され、放課後にはそれらを掲示する作業に追われた。


「あ、このお店知らない」


 他の班の作業を覗き込んで声をあげる子も多くいる。狭い聖南市と言っても意外と知らない店も多い。


 友子たちの班が取材して来た中にラーメン屋もあった。


「やっぱりここの『イナズマスパークラーメン』は紹介しておかないと」


 死にそうなくらい辛かったという友子の顔に、あれ以来行ってないと私は順ちゃんを思い浮かべていた。もう二年も経つのか。



 学園祭が一週間後に迫った時のこと、なかなかわからなかったB組の出し物が判明したと美幸が教室に駆け込んできた。まるでそれはスクープを手にした記者のようだ。


「下着事情?」


 ようやくわかったというより、その内容に誰もが驚き興味を示した。


「そう!もう一週間前だから話してもいいかって。それで今時の女子高生の下着を紹介するってことらしいよ」


 ウワ~ッ!とどこからともなく声が上がる。


「B組も大胆なこと思いついたわね」


 つい私はB組の方向に目をやった。


「でもいくら写真だからって、自分の下着を張り出されるなんて恥ずかしいよね」


 誰かが呟いた途端、美幸は慌てて手を振った。


「違うのよ。私も最初そうだと思ったんだけど、訊いたら掲示するのはすべて本物らしいよ」


「本物!?」

 

 驚きの声が揃ってから「恥ずかしい」という声も続く。


「まさか使ってるやつとかじゃないんでしょ?」


「それも気になって訊いたのよ。そうしたらだいたいはこれから着けようっていうおニューのやつらしいんだけど、数が足りなかったら使ってるのも出すって言ってたわよ」


「もしかして、その日穿いてきたものまで貼り出しちゃうんじゃないでしょうね?」


 イヤ~ッ!と教室内に声が響いた。


「だけど、よくそんなのにOKが出たわね」


 どうみても却下されるだろうと私は美幸に訊ねてみた。


「でしょ!だから同じこと訊いたのよ。そうしたらやっぱりダメって担任に言われたみたいで、ほらあの数学の油男」


「あ~、下着チラ見する奴ね」


「そうそう。それでダメだっていうなら下着見てたこと校長にチクるって誰かが言ったみたいで―――」



 勇気があるというのか、ある意味これは脅迫とも言えるが、それだけにB組には是非とも見学に行かなければならないと思った。きっとスケベ男子も集まるだろう。



 学園祭を翌日に控えた土曜日は、授業を中止して朝から準備に取り掛かった。教室を四対六に仕切って、広い方が展示用で、残りがカフェのスペース。レンタルショップで用意してもらった機材なども皆で力を合わせて運ぶ。


 大変そうだったのはA組だ。焼きそば、かき氷、射的に金魚と運び込むものは多い。さすがに金魚はオモチャだと話していた。印刷した学園祭の案内状も方々に配った。雪子叔母さんにも頼んで、お店に一枚貼ってもらってある。


「そんなわけで今週は土日って休みになっちゃいますけど」


 夕方まで掛かった準備でくたくたになった私は、一応挨拶だけはと帰りに『花梨』に立ち寄った。


「いいのよそんなこと。でも時間でもあったら覗きに行ってみたいわね。もっともこんなオバサンが行ったら場違いもいいところだろうけど」



 定休日の月曜ならともかく、日曜閉めてまで来る価値はないと私は手を振った。

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