第70話

 花の十八歳の夏休みは呆気なく終わった。学校に行くと毎年恒例の会話が始まる。誰が誰と別れた。誰が初体験を済ませた。そこに今年は免許の話題も加わった。


「由佳理取れたんでしょ?」


 早速、友子が訊いてくる。私はカバンから取り出して見せた。


「すご~い!免許だ~!いいな~」


 その一言に私も誇らしい気持ちになる。数人のクラスメイトも覗きに来て一様に声をあげる。他の教習所に行ったという何人かも取ったらしく、それを見せに来た。


 京子きょうこ美幸みゆきだ。二人が口にしたのは、思ってた通り写真だった。前髪がどうのとか、ブスで恥ずかしいとか、ここでもひと盛り上がり。



 二学期が始まると秋の学園祭に向けてアクセルを一気に加速。桜女子高三年に一度のイベントである。特別な用事が無い限りほとんどの生徒が放課後まで残って作業に追われた。


 土曜の午後も例外ではなく、当然バイトにも行けない。




「学園祭なんて懐かしい響きね~。それで由佳理ちゃんところは何をやるの?」


 日曜の午後にお店に入った時、雪子叔母さんは遠い過去を振り返るように訊ねてきたが、明確な答えは返せなかった。一学期のうちに出された案はいくつかに絞り込まれている。


 私達の三年C組のクラスの出し物として現在残っているのは三つ。ただ、女が三十人からいると買い物と一緒でなかなか決まらない。このままでは準備も出来ないと最終的には多数決で出し物だけは決まった。


 自主性を尊重しようとほとんど口を挟まなかった担任の里美さとみ先生もホッとした様子だ。苗字は小畑おばただけど私達は下の名前で普段は呼んでいる。


「ようやくって感じね」


 私の机のところに来た友子がニコって微笑む。美幸も来た。


「決まったね。私的にはお化け屋敷も捨てがたいけど、下手なお化け見せるんだったら、うちのお母さんの寝顔の方が早いって話だし」


 美幸の言葉に私と友子は声を出して笑った。友子は面識でもあるのか手も叩いている。


「お祭りの的屋なんかも良かったよね。でもあれは先にA組がやるって決まっちゃっていたからな~。浴衣とか着たら男子受けもよかっただろうけど」


 私の声に二人は頷く。


「それでB組は?」と私が続ける。


「それがまだ決まってないみたいよ。クラスの子に訊いてもはっきりしたこと言わないから――」


 友子はそう言って首を傾げた。





―――「結局、聖南市のお勧め飲食店ってことになったんですよ」


「地元をアピールしようっていうのね。お店の宣伝にもなるし良いんじゃない!それで由佳理ちゃんは何するの?」


 翌週、学園祭の話を切り出すと雪子叔母さんは、楽しそうな表情を浮かべた。


「私はお店の取材とかは無しで、一緒にやることになったカフェの担当なんです」

「あら!それじゃお手の物じゃない」


 バイトはかれこれ二年になり、今ではドリップで淹れるコーヒーも任されていて、時給は六百円に上がっていた。


 取材で走り回る子にはお礼として美味しい飲み物を淹れてあげよう。

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