第67話
「ひょっとして?」
そのニュアンスにピンと来た。
「出来たっていうのか、泊りに来てた人にちょっと―――」と紗枝ちゃんは近況を伝える。一度だけ食事に行ったのだそうだ。
「へ~っ、じゃもしかしたらってこともあるかもしれないね」
その可能性を紗枝ちゃんも感じているのかもしれない。恥ずかしそうな声を出した。
それから少し間を開けて「男の人とするってどんな感じ?」と囁くように訊いてきた。
「どんな感じかって言うと―――」
私は思ったことを喋った。性行為については中学の保健の授業で聞いたから誰もが知識として持っているだろうが、先生にしてもあまり生々しくは伝えてこない。
「やっぱり‥‥初めてって痛かった?」
初めて泊った民宿でもこんなことを訊かれた。ただ、今回の方が言葉に気持ちが入っている感じだ。
「なんだか、凄く怖くて」
「みんな怖いのは一緒。だって初めてなんだから」
私の言葉に自分を納得させたように、そうだよねと紗枝ちゃんは呟いた。
「それで‥‥なんて言うか、どのくらいで気持ちよくなるものなの?由佳理ちゃんがしてくれたみたいに―――」
「紗枝ちゃん凄かったもんね」
「もう、それ言わないで」
結局、紗枝ちゃんとは一時間近くも話してしまった。この分だと次回はまた新たな話が聞けるかもしれない。会話の余韻に浸りながら布団に横になると、笑っていた紗枝ちゃんの顔があの夜の顔に変わった。
艶めかしい表情。知らぬ間に私の左手が胸にたどり着いていて、次第に右手が下の方へと伸びていく。ショーツには普段と違う厚みがあった。もうそろそろ始まる。どういうわけかアレの前は身体がムズムズしてしまう。私は指を動かしながら唇を噛んだ。
昨日今日と午前中に予約が取れたので、いつものように開始のニ十分前ごろには教習所に着き、長椅子で教習カードなどを眺めていた。
「彼女って、確か小池と話してた人だよね?」
スタスタと歩み寄って来た男の子はそういうなり隣に腰を下ろした。
「ええ‥‥そうですけど」
トッポイ見た目から私の声はたどたどしくなる。
「付き合ってんの?」
「いえ、ただの友達っていうか」
それを聞いて男の子はちょっと安心したような表情を浮かべる。明るいトーンの茶
色い髪は短く刈られ、真ん中だけが盛り上がってモヒカンっぽい。見た感じは同じ年くらいだけど、学生にはどうも見えない。
「俺は
正直に言われたと答えると、安藤という人は愉快そうに笑った。
「ったく、女を家に呼ぶ時はいつもそれだ。どうせ他にも女が来てたんじゃない?」
「ええ。聖女の人が三人」
「あ~、聖女のバカ女か」
「聖女ってバカなんですか?」
「バカって言うか、サクジョよりはマシだけどさ」
「私、サクジョなんです」
思わず腰をあげようとすると、安藤君は大げさに手を振った後に、目の前に掌を合わせた。
「ごめん!そんなつもりというか、なんか頭良さそうに見えたからさ。ま~学校行ってないやつがサクジョがどうのなんて言えないんだけどさ」
慌てっぷりがなんだか面白くって、私は笑ってしまった。
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