第66話
―――「もぉ~っ、思い出すだけでイラっと来ちゃう」
午後にバイトに行った時、事の次第を雪子叔母さんにすべて話した。そんなことがあったのと雪子叔母さんも納得顔だ。
「典型的なボンボンじゃないの。でも由佳理ちゃんにそんな浮いた話があったなんて初耳」
「浮いてなんかいませんって」
すかさず私は手を振った。
「養豚か~。そんなに儲かるんなら、私もお店畳んで始めようかしら。それにしても冗談が過ぎるわね。聖女か‥‥私も憧れたな~。響きも素敵だしね。」
通う人はともかくとして、一度は憧れる高校なんだろう。私も出来ることなら行きたかった。でも補習に出るレベルじゃ到底無理だ。いずれにしても今後小池君の家に遊びに行くのは止めようと思った。
「イラっとする気持ちはわかるけど、それを仕事に出さないでよ」
言い終えるなり雪子叔母さんはクスッと笑って続ける。
「でも傑作。メス豚なんて!」
私はペロッと舌を出した。
帰った理由がホントではないことを小池君もわかっていたのだろう。教習所で会った時に彼女たちの悪ふざけを詫びた。
「頭はそれなりに良いんだろうけど、口がちょっと悪いところがあってね。特に右側に座ってた
言われてみればと彼女の胸を思い浮かべる。
「それで少しでもってパッド入れたりして見栄張ってさ。
小池君は一人でおかしそうに笑った。
「パッドって、もしかして見たの?」
「いや、見てない、見てない」
その口調からきっと嘘だと思った。あるいは他の二人のも‥‥。
いずれにしても金のあるところには人が集まるってことなんだろう。それからは教習の進み具合など話しただけでバイクや家へのお誘いは無かった。もちろん、あったところで断るだろうけど。
その日の夜、私は取り出したメモを見ながらダイヤルを回す。いつか電話を掛けた男性のメモは既に処分済みで、小池君のメモについてはあの日の帰り道に丸めて捨てている。電話をしたのは民宿で友達になった亜実ちゃんと紗枝ちゃんだ。
亜実ちゃんにまずは電話して三十分くらい話してから、次に紗枝ちゃんに掛けた。お母さんが出た後に紗枝ちゃんの声が耳に届く。声が弾んでいる。
「もぉ~、二人ともあんなところで待ってるんだもん。泣けちゃったじゃない」
亜実ちゃんにも最初にこんな話をした。
「私達だってあの後二人で大泣き」
紗枝ちゃんはそう言って笑った。私も一緒に笑う。
海のシーズンなのでまだ二人は民宿でバイトしているのだそうだ。今月いっぱいまでは続けるらしい。
「その後、どう?彼とか出来た?」
紗枝ちゃんは否定もせずに、う~ん、と言葉を濁らせる。
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