第64話
「母豚からだいたい一度に十頭くらい生まれるんだよ」
子豚を見ながら小池君が解説をする。一頭くらい抱き上げて持って帰りたいくらいだ。すると突然、ブイ~~ッ!っともの凄い鳴き声がした。何事かと振り返ると大きな豚が背後から別の豚に覆いかぶさって腰を振っている。
「あ~!これ!これ!」
お父さんは苦笑を浮かべながら豚の背中をパシパシと叩いた。
「お嬢さんには目の毒かもしれないな」
何度も叩いたので豚は離れた。好奇な目で見るわけにもいかないので、ここは恥ずかしそうに顔を赤らめておいた。それでもお尻がムズムズする。最近バックといえば教習所でするくらいだ。
「名前とか付いてるの?」
私の質問に小池君は、これだけの頭数だからと笑い、でもと子豚を見た。
「一頭だけ付けてるのがいるんだ」
「どれ?」
「あれだよ」
指を差されても一向にわからない。私にはどれも同じに見える。特徴を言われてなんとなく理解した。
「トンコ」
どんな愛らしい名前なのかと想像して損した気分だ。捻りも何もないと私は口を尖らせた。
「それよりも―――」
豚舎から私を連れ出すと見せたいものがあるからと裏の方に連れていかれた。豚舎の反対側の奥には車を止めるガレージがあって、シャッターが下りていた。それを小池君が開けると真っ白い車が入っていて、ピカピカとした艶を放っていた。
「誰の?」
兄弟も居ないと聞いていたのでお父さんの車だろうとその時は思った。それにしては若々しくも見えるほどスポーティだ。すると、得意そうに小池君が言った。
「俺のなんだよ」
「俺のって、まだ免許を取ってる最中なのに、もう車が来てるの?それもこれって新車でしょ?」
「ま~、なんて言うか、これもローンというか―――」
有り得ないというよりも呆れた。バイクの支払いも始まっていないのに車が来てるとはとんだすねかじりのボンボンだと、一気にポイントが急降下した。これなら穿き古したヨレヨレのショーツで来ればよかった。
きっとあの子たちがこれに化けたのね、と車をもう一度眺めてから、私は案内されるまま部屋に上がった。私が来るかは定かでないにしても部屋はそれなりに片付いている。きれい好きなのは豚と一緒か。
挨拶した時に顔を見せたお母さんがジュースとショートケーキを持って現れた。もしや健ちゃんなどというのではと嫌な予感が走った時「健一、他にもお友達がみえたみたいよ」とお母さんは顔を横に向けた。
直後、お邪魔します、と数人の声が響いて階段を上る音が聞こえた。
部屋に現れたのは三人の女の子だった。見た感じたぶん同級生なんだろう。三人ともトップからサイドは外向きのブローで、バックは内側に緩くカールさせる聖子カットにしている。
手間暇掛かりそうなどと思いつつ小池君とのやり取りを見ていると、頻繁に遊びに来てる友達って感じだ。
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