第59話
「紗枝‥‥ちゃん。起きてる?」
「‥‥‥‥うん」
鼻息と身体がピタッと止まって紗枝ちゃんが答える。
「そっちに行っても良い?」
返事をするまでしばしの間が空いた。それでも嫌とは言わなかった。私は布団を静かに抜け出し紗枝ちゃんの布団に入った。
紗枝ちゃんの身体は火照っていた。ゆっくりと顔を近付けると紗枝ちゃんは目を閉じた。
軽く唇を合わせてから舌を入れると、身体がビクッと反応した。そして、すぐに私の舌に応えた。堪えていた鼻息が漏れる。パジャマのボタンを外してブラの上から優しく胸を揉んだ。やっぱり私と同じくらいはある。
ホックを外すと押さえつけられていたような胸が目の前に飛び出した。チェリーが二つ淡いライトに照らされる。私がそれをそっと口に含むと、紗枝ちゃんは身体を反らせて口に手を当てる。未経験と言っても高校三年生。身体はもう大人だ。
舌を転がしながらショーツの中に手を差し込むと、私の指はたちまち湿った。紗枝ちゃんの足がブルブルッと震える。あとはもうそこにたどり着かせるまでと、私は指を優しく動かし続けた。
「おはよう!」
泊ったお客さんの朝食の片付けを終えてから私達は別の小さな部屋で食事を摂った。一年前にも経験しているのでなんだか懐かしい。違いと言えば、紗枝ちゃんが時折見せる照れ臭そうな顔だろうか。私もなんとなく目を合わせ辛かった。
その後、紗枝ちゃんは疲れ果てたようにぐっすりと深い眠りについたらしく、結局一番私が最後に寝ることになった。
「なんだか先輩寝不足って感じですよ」
梨絵の言葉に惚けて見せたものの、いつ寝入ったのか正直覚えていない。どうせ電車で長い時間揺られるのだからその時ゆっくり眠ればいい。
身支度を済ませて民宿から出ると、亜実ちゃんと紗枝ちゃん、そしておばさんと無口なおじさんが顔を揃えた。来年はたぶん来られないという思いが私の笑顔を歪ませる。おばさんも笑いながら鼻を啜っていた。
亜実ちゃんも紗枝ちゃんも目を拭っている。必ず近況報告するからと、今年はそれぞれの電話番号を交換した。
「絶対掛けてよ!私もするから」
亜実ちゃんと紗枝ちゃんが声を揃える。わかったと梨絵と答えた。駅に向かいながら何度も振り返った。
「去年もそうだったけど、やっぱり別れって辛いね」
駅で電車を待ちながら私はポツリと呟く。梨絵も同様でうん、と言ったきり遠くを見つめている。
「私‥‥来年も来ちゃおうかな~。一人で」
「あっ!そういう抜け駆けみたいなことするんだ」
「だって先輩就職でしょ?」
そう言われると返す言葉が出ない。
「一人じゃなくて、二人なんでしょ?」
今度は梨絵が言い返せなかった。
電車がゆっくりと動き始める。これで見納めになるかもしれないと私は外の景色を目に焼き付けるよう海辺の町に視線を送る。窓から入り込む潮風も覚えておこう。そんなことを考えた時、少し先の踏切に立つ人影に思わず声をあげた。
一目でそれとわかる服装。亜実ちゃんと紗枝ちゃんだ。電車に向かって手を振っている。梨絵と窓を大きく開けて私達も手を振った。
「亜実ちゃ~ん!紗枝ちゃ~ん!」
声を張り上げた。二人も気付いたようだ。振っていた手をさらに大きく左右に振る。ピョンピョンと飛び跳ねてもいた。
「さようなら!ありがと~!」
見えなくなるまで笑顔で手を振っていたつもりだった。でも途中からは笑顔じゃなくなっていた。
「も~っ!二人とも泣かすようなことして‥‥」
梨絵も泣いていた。
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