第57話
二人のアルバイトも最後になるんだろうと、民宿のおばさんも気を遣ってくれて、四人で海に行くよう勧めてくれた。そういう話になるとは思っていなかったらしく、慌てて亜実ちゃんと紗枝ちゃんは自宅に水着を取りに戻った。そして去年同様民宿でそれに着替える。
亜実ちゃんも紗枝ちゃんもビキニだった。紗枝ちゃんは私と同じでDカップはありそう。亜実ちゃんは梨絵と似たようなサイズか。でも腰がよくくびれていてスタイルはなかなかだ。
あっと言う間に打ち解けた私達は、まるで去年が昨日であるかのように海ではしゃぎまわった。
―――「かわいい子が四人もいるじゃない!」
ビーチマットでお喋りをしていると、周りを取り囲むように現れた男性達に声を掛けられた。相手は三人。似たような歳だろうか。
「そう、ちょうど食べごろよ」
私がそう言うと互いに顔を見合わせ、笑顔を弾けさせた。一気に気分を上昇させた彼らは腰を下ろして私達をじっと眺める。品定めでもしている感じだ。この分だとすぐにやれると股間でも膨らませていたら、カニでも捕まえて来て挟んでやるところだ。
あいにくそこまで飢えてもいないらしい。盛り上がったついでの冗談と、私達もそれなりに調子を合わせていたが、亜実ちゃんだけは笑いがぎこちない。どこか怯えているようにも見える。
「せっかくだけど、私達みんな彼氏がいて、今待ってるところなの」
それで三人を追い払った方が良いと咄嗟に私は機転を利かす。
「なんだよ~。男いんのかよ~」
辺りを見回しながらもどこか納得のいかない様子だ。
「集会のあと寝ずに飛んでくるって言っていたからそろそろ来る頃じゃない。シャコタンでブイブイ言わせてくるから遠くからでもわかるわよ」
ガラの悪い連中に絡まれたりしたら大変だと三人はそそくさとその場を離れた。
「良かった。でもいつまでもここにいるとまずいし、お手伝いもあるから、そろそろ戻ろっか!」
頷き合って皆で腰を上げる。そんな中、亜実ちゃんだけが胸を撫でおろすようにしていた。
お手伝いの勘はすぐに戻った。アルバイトの経験も役に立っているのだろう。手際が良くなったと民宿のおばさんも褒めてくれた。一通り仕事を終え食事とお風呂を済ませた私達は去年と同じ部屋に布団を並べた。
「亜実ちゃんも紗枝ちゃんも就職?」
私の問いに二人が揃って頷いた。
「由佳理ちゃんは?」
「私も働こうかなって。兄貴は大学行ったんだけどけっこう無理してんのよね。だから迷惑かけないってのもあるし、勉強も嫌いだから」
「一緒~っ!」と二人は手を叩いて笑った。
「私、出来れば東京とかで働いてみたいなって思ってるんよ」と亜実ちゃんが思いを口にする。
「地元も良いんだろうけど、なんか憧れるのよね~」
皆で相槌を打つ。わかる気がする。大都会。そんな街を悠々と歩いていく。想像するだけでカッコいい。
「私はやっぱり家から通いたいから地元かな~」
続いて紗枝ちゃんが口を開くがなんとなく弱々しい。
「うち親が離婚して母子家庭だから、私が出て行っちゃうとお母さん一人になっちゃうから」
皆それぞれに事情があるのだと、私はそっと息を吐き出した。
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