第54話

「教習所って同じような歳の人が多いんでしょ?カッコいい人とかも居るんじゃないですか?」


「どうかな~。早く取らなきゃって思ってるから、他の人のことなんか気にしてらんないよ」


 喋りながらなぜか頭の中には小池君が浮かんでいた。


「そうそう!梨絵は水着どうするの?」

「水着ですか?」


「去年のもうきついんじゃない?」


 話題を逸らそうと胸元に視線を送る。どうだろうかという表情で梨絵は首を傾げる。


「たぶん収まると思いますよ。万一ダメそうだったら先輩のって手もあるし」

「私のじゃ少し弛みが出ちゃうんじゃない?」


「あっ!その時は二枚くらいパッド入れちゃいますから」


 近くに男でも居たら絶対出来ない会話だ。


「そういえば、うまく行ってるんでしょ?」

「ええ」


 余程順調と見えて梨絵も即答だ。


「だったら今年は電車じゃなくて彼に送って行ってもらうって手もあるかな~」


「車でですか?それもアリかも。でもそうなったら私は民宿には泊まれなくなっちゃいますよ」


「え?どこに泊るの?」

「それは‥‥‥」


 そこまで言って梨絵はポッと顔を赤らめる。正直こんな顔を見せる梨絵が羨ましいと思った。



 梨絵とはあんな会話をしたけど、毎年水着を買うのは気が引ける。たかだか一日程度だ。多少はみ出したところで視線を集めるだけ。文句を言う人は今は居ない。




 キ~ンコン♪カ~ンコン♪


 学校のチャイムが鳴る。それと同時に教室が一斉に騒がしくなる。


「やった~っ!明日から夏休みっ!」


 秋だったような顔が皆春のようだ。


「良いよね~、素直に喜べる人は」


 私のところに友子が憂鬱そうにやって来た。


「由佳理も補習なんでしょ?」

「モチ!」


 当然のように私は答える。友子も大方了解済みだ。


「一週間は痛いよね~」


 友子の言うことには同感だ。こんな時はもっと気合を入れて勉強しておけばと思う。


「私なんかあと五点だったのよ」


 だからなのか思わず悔し紛れの台詞が飛び出す。


「五点?そう。私なんか二十点。でも補習は補習だから―――」


 ニ十点とは友子も相当なバカだと思いながらも、五点分くらい下着のサービスでも奮発しておけばよかったと思った。



 夏休み最初の日曜、梨絵が今年も宿題持参で現れた。


「なんか恒例行事って感じね」

「家でやるよりも先輩の部屋の方が進む気がするんですよね」


 これも梨絵のお約束の台詞だ。


「そうそう、先輩今年もまた補習ですか?」

「今年もってなによ!ま~当たってるけどね。一年の時はセーフだったんだけどな~。それより梨絵ちゃんはどうなの?」


 私の問いに梨絵はペロッと舌を出す。そういえば去年も補習だったような。


「もう彼に話しちゃおうかな~。梨絵ちゃんってホントバカなんですよ~って!」


 この一言は効いたのか、慌てて梨絵は恥ずかしそうにノートに目を向ける。こういうところは一段と可愛い。


 午前中だけとは言え、明日から一週間は毎日学校。せっかくの夏休みなのに気が重い。梨絵ともしばしのお別れだ。

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