第51話
「もしかして友子…アレ?」
「そう、昨日から」
だいたい友子の機嫌が悪くなる時はアレの時だ。分かり易い。
「毎月毎月、もういつまで続くんだろうね、これ」
「まだまだ。おばあちゃんになるまでじゃない」
「そう?うちのおばあちゃんなんてまだあるって言ってたよ」
予想もしない友子の言葉に私は目を丸くする。
「えっ?おばあちゃんって今いくつなの?」
「五十ちょっとかな」
そういえば一度だけ友子のお母さんを見たことがある。もの凄く若くて驚いた。
「じゃ、お母さんは?」
「確か‥‥三十五」
納得しながらも開いた口が止まってしまった。
「おばあちゃんもお母さんも結婚が早かったんだって。早いついでに私も四月に生んで欲しかったんだよね」
早い結婚と四月がどう繋がるのか考えていると、友子は取り替えてくるわ、と言ってスカートの前を叩くようにして席を離れて行った。笑顔で見送った後で、交わしたばかりの会話を振り返る。
うちのお母さんと十歳以上違う。若いお母さんを現実のものとするために、二十歳には結婚しその年に子供を産みたい。となると十九歳のうちにってこと。つまりは出来ちゃった婚。一人苦笑を浮かべると今度は免許のことが入れ替わるように浮かぶ。
負担を掛けたくないから、自分で稼ぐようになってからでもと、その時は思った。
―――「由佳理も免許取りに行くんでしょ?」
その日の夕方、一緒に夕ご飯の支度をしていたらお母さんが口を開いた。
「今日、緑ちゃんのお母さんから聞いたのよ。誕生日が来たら教習所に行けるようになるって」
緑ちゃんはクラスこそ違うが親はお母さんと同じ職場で働いている。
「でもけっこう掛かるみたいだから後でもいいかなって」
チラッとお母さんがこちらを見る。
「資格は早いうちの方がいいのよ。仕事でも始めたらそれこそ取りに行く暇なんてなくなっちゃうから。大学に行くとか言うんなら話は別だけど」
私はすぐに首を振った。
「でも免許って十万円以上するって聞いたよ」
「大学に行かせると思えば免許なんて安いもんよ」
事も無げにお母さんは一笑した。
「あ‥‥だったら、そのお金でお母さん美容院にでも行って?」
トマトをくし切りしていた手が止まった。それから少しして、
「わかった。じゃ~美容院に行かせてもらうわ。だから由佳理も教習所にね」
少しお母さんと見つめ合ってから私は分かったと答えた。
「なんだか美容院なんて久しぶりね~。少し白いものが目立って来たからついでに染めてもらっちゃおうかしら」
急にお母さんの身体が左右に揺れる。
「真っ黒って重い感じだからブラウンなんてのも良いわね」
そう言って笑いながらこちらを向く。
お母さんからブラウンなんて言葉が出るとは思わなかったと私は目を丸くしながら笑顔で応えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます