第50話

 二十歳に結婚するとなるとあと三年。出来れば二、三年はお付き合いしてからが良いな。電撃結婚なんてのもあるけど、出来ちゃった婚だけは避けたい。ただでさえ疲れているお母さんが倒れちゃうかもしれないから。二、三年ってことはもうそろそろ相手を見つけておかないと。



 涼しい秋風が北風に変わると、余計に物悲しく感じる。恋人でも居て温もりを感じ合えればと首元のマフラーを巻き直す。そういえば最後にしたのはいつだろう。このままじゃ塞がっちゃうかもしれないと、ちょっとだけHなことも考える。でもそんな考えも霧のように消えていく。まだまだ恋愛に前向きになれないのだろう。


 若葉が芽吹き出し、最上級生になっても浮いた話は何もなかった。やがて合羽を着て通学する季節が終わると、今度は纏わりつくような湿度に顔をしかめる。


 ホント一年って早い。



 優しいキスをくれた下柳さんも、視線を送ってくれた男性も相も変わらずお店にはやってきてくれた。まさしく常連さんだ。一緒に来る女性の視線もあの頃のまま。もっとも慣れたせいか気にならなくなった。友達なのか恋人なのかもどうでもいいことに思えた。


 梨絵も二年生になってCカップに格上げ。なんだかそれも最近きついようなことを口にしているから、まだまだ成長途中なのだろう。身長も百六十五センチまで伸びて、私との差はさらに広がった。勝っているのはバストくらいか。ひょっとしたら体重もかもしれない。


 海に向けてダイエットしなきゃ。




 七月に入って数日が過ぎたある日、二時間目の休み時間に友子ともこがやってきた。同じクラスの友子とは気が合うのかよくお喋りをする。去年あたりまではわが校の半分以上の生徒が聖子カットにしていて、友子もそれをトレードマークにしていた。


 しかし、片手にドライヤー、もう片方でブラシを持って聖子カットを作るのは面倒だと、今は雰囲気を残しながらも割と短めにまとめている。かく言う私も挑戦こそしたものの、あっさりと断念したヘアースタイルでもある。専属の美容師でも居ないと無理だ。


「もうすぐ由佳理誕生日でしょ。免許取りに行くの?」


「あれ、覚えててくれたんだ」


「もう友達でしょ。って言いながら頭に残っちゃってるのよね。歴史の年号なんか忘れちゃうのに―――」


 七月十日が私の十八回目の誕生日。覚えやすいように人に話す時は七と十で納豆の日って話している。


「免許ね~」


 私の学校は十八歳にならないと教習所に行くことが出来ない。それを心待ちにしている生徒は多いが、家のことを考えると言葉も重くなる。


「由佳理は良いよね七月だもん。私なんて三月だからさ~もう卒業しちゃうって話よ。四月とか言わないけどもうちょっと早く生んで欲しかったわ」


 友子は口を尖らせながら不満を口にする。今日は機嫌が悪そうだ。

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