第44話
「海から帰ったらアソコがジャリジャリで―――」
梨絵の言葉に私も云々と頷く。すると、
「そんな時はお風呂に水と塩を入れてしばらく浸かってれば良いのよ」
そう言って紗枝ちゃんが含み笑いを浮かべる。
「なんだかそれって貝みたい‥‥あ!イヤ~」と皆で大笑い。
当然のことのように恋の話にもなった。彼はいるのかと訊かれたので私も梨絵も首を振る。紗枝ちゃんも亜実ちゃんも居ないらしい。でも私達は未経験じゃないと伝えたら二人とも驚いていた。
「やっぱり高校のうちには済ませたいよね」
恥ずかしそうに亜実ちゃんが言うと、
「私はやっぱり結婚する相手とかな」と紗枝ちゃん。
今時古いわよと亜実ちゃんがすぐにからかう。それもわかるような気がするけど、紗枝ちゃんのいうこともわかる。話は尽きなかった。
「お喋りも良いけど明日の朝も早いのよ」と見かねた民宿のおばさんの一声で私達は明かりを消した。また来年会おうって民宿を後にした時は、なんだかウルって来ちゃった。
アルバイトは継続中。すっかりいろんなメニューが作れるようになった。接客にも磨きが掛かり、卒業したらここで働かないかと雪子叔母さんに言われるほどだ。
下柳さんも定期的に顔を出し続けてくれている。常連さんを無くさなくて済んだとたまにあの夜での出来事を思い出す。あのキスは私へのエールだったんじゃないかって、相変わらずカウンターで冗談を飛ばして笑いを誘う下柳さんに感謝した。
―――「その後どう?電話をくれた彼とは」
九月に入って最初の日曜日、家に遊びに来た梨絵に進展を訊ねたところ、何度か会ったという答えが返って来た。どうやらうまく進んでいるらしい。その彼は地元ではないが、隣県であったため車で一時間半もあれば来られるのだとか。年齢は免許を取ったばかりの十八歳。ちょっと年上でまるで私と順ちゃんの関係のようだ。
「どこまで進んだの?」
そんな問いかけに梨絵は顔を赤らめる。どうやら行くところまでは行ったらしい。
「アレだけは忘れないようにね」
一応、過去のこともあるので念押しだけはしておく。梨絵もこくりと頷く。
「それより先輩の方はどうなんですか?」
正直、これは痛い質問だ。
「う~ん、私はほらお仕事が忙しいから」
そんな台詞でごまかしては見たものの、梨絵も事情をわきまえているのでそれ以上は訊いてこない。
「一年なんてあっという間ね」
二人で去年の今頃を思い出すように狭い部屋に視線を這わせた。
「先輩も進学するんですか?」
夏休みに来た時、ちょうど帰省した兄貴を見て思ったのだろう。
「ううん。私は就職。お母さんにこれ以上迷惑は掛けられないし、勉強だって好きじゃないでしょ」
「うちの親は専門学校になんて今から言ってるんですよ」
「専門学校か~。でも梨絵んちは一人っ子だから良いんじゃない」
学校という名が付くだけで憂鬱になるのだろう。それは私と一緒だ。
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